第4話 謎解きはトラップの香り

文字数 15,427文字

タクシーを降りた場所まではスムーズに下りられた。道を挟んだ向かい側に階段がまっすぐ伸びている。一〇〇メートルほど先からは左にカーブしていてふもとまでどのように続くのかは見えない。樹林の中を通る階段だけに先は暗い。
「下りるときは気をつけろ。上り以上に筋力を使う。一段とばしとか無理して下りると足ががくがくするぞ」
アディオスが注意する。
「階段って上がるときは心肺機能、下りるときは筋力を高めるって言いますもんね」
前川が追従した。
「すでに足ががくがくしてるんですけど」
不二美は太股を押さえた。
「誰かが遅れたら集団行動をとってないと言われかねない。よし、不二美が自分のペースで先に降りてくれ」
アディオスの指示に不二美がうなずき先に下りだす。続いてアディオスと前川が並ぶようにして下り始めた。寺から道路までの階段とは異なる様相を呈している。『日本一のスチール階段』と下書きされた看板が右脇に立てられていた。
「鉄の看板が埋め込まれた踏み板が並んでいるな。廃品利用丸出しだ」
最後尾を行くアディオスが前川に言った。
「鉄というよりブリキですよね」前川が足下を凝視しながら返す。
「ブリキも鉄にスズのメッキをしてあるわけだから鉄が含まれていることに違いはない」
アディオスが解説した。
「どうしてスズをメッキするの?」
先頭の不二美が顔を横に向け訊いてくる。
「スズは鉄より腐食しにくいからだよ。鉄をスズで覆えば鉄の腐食が防げる。ただし、一部でも鉄がお目見えしてしまえばスズが鉄の腐食を促してしまうので、そこから鉄の腐食が広がっていくのが難点だがな」
アディオスはしたり顔で説明した。埋められたブリキには広告が目立つ。
「あっ、こっから先は昔のアイドルとか俳優のメタルプレートやらブリキ看板が埋められてますよ」
「踏みつけるのは失礼じゃないか」
アディオスは苦笑いを浮かべた。女性アイドルのプレートは不二美によって容赦なく踏みつけられていく。
「あっ、ここから先は県議会議員の名前とか並んでますよ」前川は明朝体ででかでかと書かれた名前を指した。
「いずれも菊井町と敵対している議員だろう。彼らの信奉者は階段を踏むのを躊躇する。菊井町びいきの議員支持者だけしか参拝できないというわけか」アディオスが推察した。
「江戸時代の絵踏みたいなものですね」
そういう前川は名前の部分を踏むのをあえて避けている。階段はさらに国会議員の名前と写真が載っている踏み段へと移り変わった。いずれも中央集権、地方切り捨てを信条としている議員たちだ。
 その後も鉄製のモアイ像や十字架など様々なものが埋め込まれた階段が続いていく。
「うわっ、十字架とか宗教関係の人は踏めませんよね。これこそ絵踏じゃないですか」
アディオスと前川は十字架を踏まないようにたくみな足さばきで下りて行く。
「町民にとってここの寺の宗派以外の宗教はどうでもいいのだろうな」
アディオスもタップダンサーのように爪先で踏んではいけないゾーンをくぐりぬけながら下りて行く。 
「先輩、こっから先はトタンの屋根の再利用っぽいですよ」
前川が指す先にはカラフルなトタンが埋め込まれた階段が続いている。
「トタンは鉄に亜鉛をメッキしたものだからな。一応、鉄は含まれている。錆びるときは亜鉛が先だから鉄の腐食を遅らせるらしい」
アディオスが再び説明を加えた。
「先輩、今度はほとんど家庭ゴミを埋め込んだような階段になりましたよ」
踏み板には家庭ゴミに入っているような鉄くずが露骨に顔を出している。『いっぱいためると一〇万円』と書かれた鉄板は貯金箱を切り開いた物だろう。
「あっ、ここで鉄の段がとぎれてるわ」
先頭を行く不二美が甲高い声をあげた。階段が土色になっている。
「スチール階段の未完成部分のようだな。これから鉄なら何でもありで埋められていくのだろう」
アディオスが憶測を述べた。
 さらに下りて行くとトンネルを抜けるときのように太陽の光が差しこむ場所が見えてきた。前川は小刻みに段を下り最後の踊り場へと下り立つと「いよいよ最後のようですね」
と踊り場の右を指した。
「あらっ、また階段が立派なスチールになってるわ」
踊り場に下りた不二美の指摘にアディオスも指した方向を見る。上り口へと伸びる階段は太陽の光を浴びて銀色に輝いていた。
「例によって完璧なスチール階段のようですね。異常なまでのギラつきです。これまで降りてきた階段と同類とは思えない」
前川は目をしばたたいた。上がり口では記念撮影している家族の姿が見えた。戦国宝探しの参加者のようだが、子どもを連れている時点で本気で優勝を狙っているわけではなさそうだ。これから上るところなのだろう。
「よし、記念撮影ゾーン突入、残りわずかだ」
アディオスがきらめく階段を踏みながら皮肉のコメントを発した。
 階段の一つ一つにはこれまでに見られなかったゴム製の滑り止めが丁寧に貼られていた。アディオスは最後は一段飛ばしで銀色にきらめく段を下りきった。
 振り返って見る。入口に設けられた看板には『日本一のスチール階段』という下書きがうっすらと見えている。その下には申し訳程度の大きさで『一部スチール含有金属を含む』と注意書きがある。鉄が少しでも含まれていればブリキ、超合金、なんでもありだ。ただ、ふもとから見上げてみる限り、銀色に輝く階段を背景に記念撮影をしたいという衝動に駆られるような光景であることには違いない。
遅れて前川と不二美が下りきると、アディオスは「タクシーを呼ばないとな」と辺りウを見渡した。ほどなく道ばたにさっきのタクシーが一台だけ停まっているのを発見した。明らかにアディオスらが降りてくるのを待っていたような雰囲気だ。
「さっきのドライバーですよ。やめときましょう」
「安心しろ。ここから先は平坦な道だ。メーターは変な上がり方はしない」
「またタクシー? ヒッチハイクにしない? 参加費無料ってあったけど、べらぼうにお金遣わせるわよね。なんか無料とうたった課金制ゲームみたい」
不二美が毒づく。
「ここは下手にケチって時間を浪費したら優勝はおぼつかない。いいか、優勝すれば華蓮たちに勝ってさらに百万が手に入るんだ。優勝することが最優先にすべきだろ」
「たしかにその通りですね。最悪なのは華蓮さんたちのチームに負けることですからね。賞金どころが罰金を払うことになってしまう」
「そうね。華蓮に負けたら一生、わら人形を打ち続けなくてはならなくなるわ。タクシーで行きましょう」
不二美はつり上がった目で言った。
「よし、乗ろう」
アディオスは手招きをしてタクシーを呼び寄せると助手席へと乗りこんだ。不二美と前川も後部座席に乗りこむ。 
「あら、またお会いしましたね。奇遇ですな。どちらまで?」
ドライバーが感情がいっさいこもっていないような棒台詞をしかけてくる。
「うぅん、わかってると思うけど玉田商店。急いで」
アディオスも事務的な一本調子な口調で告げた。
 タクシーは唸り音を上げて走り出した。
「宝はいただけそうですかな」
運転手がアディオスに目をやりたずねた。
「まあ、運転手さんの運転しだいというとこですね」
アディオスはテノール声で返した。その目は運賃メーターを見つめたままだ。運転手はその後も周囲の風景に目を向けるようしむける話題を展開する。アディオスはその手には乗らぬとばかり料金メーターから視線を外さず生返事を返す。
「先輩、さっきからメーターばかり見てますけど、どうしたんですか?」
背後から前川がたずねてきた。
「いや、メーターチェック。不審な上がり方をしないか見張っておかないと」
アディオスが返答するやいなや、その目がメーターのいかさまをとらえた。 
「ちょっとちょっと、いまメーターの金額が120円も上がったよ。普通は80円だよね。言っとくけど、このあたり高低差はまったくないからね」
アディオスは目を丸くしメーターを指した。
「あっ、これですか。時計を見てくださいよ」
「えっ、3時10分だけど」
「ほら、都会では深夜料金ってあるでしょ。夜10時から翌朝5時まで割高になるやつですよ」運転手はさも当たり前のごとく落ち着いた声で返した。
「ああ、深夜になると二割増しの料金になるやつね」
「そうです。それと同じ時間帯による割増し料金設定だからですよ」
「おい、いま昼の3時だよ。深夜と真逆だし」
「お客さん。菊井町のことがわかっちゃないですね。この辺りは歓楽街が少ないので夜間にタクシーを利用する人はいません。だから深夜料金を完全になくして、その分を朝食、昼食、夕食、そしておやつの時間帯に振り分けて割増料金にしているんですよ」
「えっ? どういうこと?」
「だから朝7七時と昼12時と夜7時が食事我慢料金、午前10時と午後3時がおやつ我慢料金として割増しになるんですよ」
「ということは……」
「そうです。午後3時だからおやつ我慢料金で3時半までは割増し料金となります」
「おやつってお子ちゃまか!」
アディオスは吠えた。
「しょうがないわ。埋蔵金が手に入ればなんてことない金額よ」
そういう不二美は財布をしまっているポケットを両手で押さえた。一切タクシー料金を出すつもりはないらしい。
 タクシーはまっすぐな農道を疾走していく。助手席の窓から外を見るとのどかな田園風景が次々と後方へと流れていく。
「あっ、あそこに見える建物が玉田商店じゃないですか? ほら、その先の道を右に行けば行けますよ」
前川の声に、料金メーターとにらめっこしていたアディオスは指された方角を見た。広がる田んぼの先に店らしき建物があり玉田商店と書いてある。
「運転手さん、その先、右折ですよね」
指摘したにも関わらずタクシーは玉田商店への道をスルーする。
「ちょっと! 通り過ぎちゃったよ」
「慌てなさんな。さっきの道、軽トラが二台停まっとったでしょ。狭い道に停められたら離合は無理。あの道は農道だから農作業用の車が優先」
「うぬぬ、じゃあ、次の道を右折ね」
アディオスが50メートル先にある舗装道を力強く指した。タクシーは再びスルーする。
「ちょっとぉ! 軽トラ停まってなかったよぉ、なんで曲がらないの」
「ほらあ、トラクターが走ってたでしょ。あれ時速10キロくらいだから着くの遅くなるでしょ。農道なんだから作業車優先」
「こんな冬にもトラクター稼働するの? 田起こしって五月ごろじゃないの?」
「あれ多分、山永さんとこのだから、気分転換のドライブで乗ってるんですよ」
「農作業関係なぁし」
アディオスは頭を抱えた。タクシーはようやく次の道路で右折した。道の真ん中を歩くおばあちゃん、路上で寝ている犬や猫、道を横切る鴨に邪魔されながらもようやく玉田商店へ繋がる道へと出る。
「スピードアーップ!」
アディオスは前方を指し声をあげた。通れなかった農道を次々と通り過ぎる。山永さんのトラクターは田んぼへと入り込み、小道は障害物ゼロのウェルカム状態になっていた。軽トラがとまっていた農道も謀ったように二台とも姿を消している。
「さっきの道、ちょっと待てば通れたわね。お金もったいない」
不二美がアディオスをおもんぱかることなく意見を述べた。
「着いたぞぉ」
アディオスは無念を振り払うかのごとく叫ぶと真っ先にタクシーを降りた。
 ずかずかと玉田商店へと入り込み、脳作業具コーナーにあったスコップを手に取った。「思いのほか早く見つかったぞ」
遅れて入ってきた不二美たちに告げるとレジへと走る。
「これ、包装なしで。いくら?」
レジでぼぉっとしているおじいさんにたずねる。年齢と風格からして店主らしい。  
「8400円です」
店主は無慈悲な代金を請求した。
「高っ」
アディオスが思わず声をもらす。
「仕方ないわ。ヒント料金と思いましょ」
店主はスコップにシールを貼る際、ヒントらしき紙をいっしょに貼って手渡した。
「この紙に書いてあるのが埋蔵金の場所ですね?」
不二美がたずねる。店主はうなずくと「この暗号を解いた年中無休の場所が宝のありかです」とささやくような声で告げた。か細い声は絶命前の遺言を聞くようだ。アディオスは商品を受け取ると礼を述べ店を出た。
 店の扉を閉めるとさっそくヒントの紙を開いて見る。
「『くおやにうがにさろすろれひら』……。意味がわからん!」
アディオスは頭を抱えた。
「どうやって解くんですかね……」前川も首をかしげた。
「ここで解いてる暇はないわ。タクシーの中で考えましょ」
不二美が促した。
三人は道ばたで待つタクシーへ再び乗りこみ、アディオスが「じゃあ迎田小学校へお願いします」と告げる。時計をチラ見し「あと二分でおやつ我慢料金は終わりですね」と料金システムの確認も忘れない。3時半をすぎてもメーター料金が跳ね上がってもらったら困る。釘をさしておかねば。
「あ、おやつ我慢料金はスタート時点の時刻で決定し、3時半すぎても継続されます」
ドライバーは平然と答えた。
「おいおいおかしいでしょ。3時半すぎたらおやつタイムじゃないから通常料金ですよね」
「お客さん、考えてもみてください。残り2分であろうとお菓子を食べるのを我慢する時間が続くわけですから」
「30分間もおやつ食べ続けないよね。いま食べてなかったし」
アディオスはお菓子らしきものを何も持たない手を指した。
「食べ終わったにせよ、日本のどこかは3時から3時半までの時刻に収まっています! このメーターはその地域の時計に準ずるんです!」
「日本標準時刻はどこも一緒ですけど」
前川がつっこむ。
「地球上のどこかです!」運転手は小学生のように興奮で鼻を膨らませた。
「日本と韓国の時差はゼロ、中国とも1時間あるわね……時差は最低でも一時間はあるみたいだけど」
不二美がスマホで調べながら穴を穿つ。
「ほらほら、ということはもっとも時差が近いおとなり中国でも現在時刻は2時半ですよ。3時ではない」
アディオスは追従して問い詰めた。
「だったら……午前3時から3時半です!」ドライバーは素っ頓狂な声を車内に響かせた。
「真夜中! もはや、おやつの時間じゃない……」前川が額に手をやった。
「というか30分単位で時刻が違う国はないんだからそれもありえない……」
財布を痛めない不二美は余計な争いに巻き込まれないよう小声でつぶやいた。問答を続ける間も料金メーターは着実に法外な金額を刻んでいった。
「ああ、おやつが食べたいなあ」
運転手はおやつ我慢料金を正当化すべくわざとらしく嘆いた。
「ガム噛めガム! 運転しながら食べられるでしょ!」
アディオスは興奮気味にまくし立てた。
「いやあ、糖尿と高血圧で甘いのと辛いのは医者からとめられてるからガムはダメなんですよぉ」
「だったらおやつタイムいらないよね! だいたい甘い辛い以外におやつにどんな味があるの? 苦い?」
アディオスは運転手に顔を接近させて揚げ足を取った。 
「抗議してる時間がもったいないわ。暗号を解きましょう」
不二美が後ろからアディオスの袖を引っ張る。アディオスは苦虫を潰したような顔をすると最後に「がるるる」と未練がましく運転手へ威嚇をしてから広げられた紙に目をやった。黒マジックで大きく文字が書き連ねてある。アディオスは声に出して読み上げた。
「『くおやにうがにさろすろれひら』……。うぅんまったく意味がわからん!」
アディオスは頭を抱えた。
「暗号を解く鍵がどこかにあるはずだわ」
不二美は文面を凝視する。
「言葉の始めに絵が描いてありますよ」
前川が文頭に添えられた絵を指した。神社にある狛犬のような絵が朱色で描かれている。
「狛犬みたいね。これが暗号を解くためのヒントじゃないかしら」
不二美は助言を促す目でアディオスを見る。よく見ると怒った獅子のような顔にあごひげがついており、しっぽは炎のような描かれかただ。
「これはシーサーですね。ほら沖縄の守り神」前川がアディオスに目をやった。
「ああ、沖縄の家の屋根とかに祀られているあれか」アディオスはうなずいて見せた。
「これ見て、尾っぽのところに汗が飛び出てるわ」
不二美が指した部分を見る。尾っぽのところから汗が二滴飛んでいるようだ。
「動物は汗かかないだろ。しかもお尻からだ」
アディオスは首をひねった。
「ちょっと待って。これって絵と組み合わせて考えるってことじゃない? 汗を二つの点と考えて濁点にするとか」
「シーサーに濁点うつとジーザーってことか?」アディオスは眉間に皺をよせた。
「尾っぽのところに濁点みたいな汗だから、後の方だけ濁らせてシーザーじゃない?」
「シーザーならカエサルとも言われる古代ローマの人物がいますよ」
前川が目を見開いた。
「人物名だとすれば、暗号の下にシーザーってどういうことだ」
「シーザー暗号のことじゃないですか?」前川は何か閃いたように目を見開いた。
「なんだそれ」アディオスがぽかんとしてたずねる。
「暗号方式の一つです。文字の順番をずらして言葉を書くんです。例えば伝えたいことが『アイ』なら、一つずつずらして『イウ』と書いて暗号化するんです」
「よく知ってるな」
「事前勉強ですよ。戦国宝探しは暗号などのクイズを解きながら宝を見つけるって書いてあったから暗号の種類は頭に入れてます。ほかに数字を使った上杉謙信暗号などもあります」
「よし、さっそくずらしてみるぞ」アディオスは再び暗号に目をやると一つずつずらして読み出した。「えぇと、『けかゆねえぎぬしわせわろふり』……わかんねぇ!」半泣きで前川に哀願の眼差しを向ける。費用をもっとも出しているうえ、華蓮に優勝をさらわれると百万の借金を背負うこととなるアディオスにとって、暗号を解けないことは死活問題だ。
「ねえ、暗号の最後にも絵が描いてあるわよ。これも暗号解く鍵じゃない?」
不二美が紙を右手に持ち替えて見せてきた。見ると、左手で隠れていた場所に絵が描いてある。三人の男の頭頂部が強調された絵だ。描かれた男は三人とも髪の毛に違和感がある。
「中年おじさんが三人ですね。しかも描かれてるのは頭だけ……」前川は首をひねる。
「絵の男たち、おでこが異常に広いと思わないか」
アディオスがつぶやくようにして同意を求めた。おでこは頭頂部近くまであり、頭頂部付近からは黒々とした髪が首筋あたりまで不自然に生えている。
「髪の毛に矢印がついていますね」
前川が指摘するとおり、三人の髪に等しく矢印がついている。絵を凝視していた不二美が声をあげた。
「これはきっとカツラのことよ。本物の髪の毛はこんな変な生え方しないもの」
「じゃあ、カツラが三つってことか。カツラサン? サンカツラ? 意味不明だぁ」
アディオスは再び半泣き顔を浮かべた。このままでは失われた金銭を取り戻すことすらできない。冷静さを欠きつつあるアディオスの潤った目には、タクシーの料金メーターに表示された現在料金3260円が映し出されている。無情にもあっさり3380円へと変わった。料金が上がる間隔も短くなったように感じる。
「ちょっと待って!」
不二美が何か名案が浮かんだかのような声をあげた。アディオスは「わかったのか?」と哀願の眼差しを不二美に向ける。
「カツラを別の読み方するとヅラじゃない」
「まあそうとも言うな……とすればヅラが三つ。そうか! ヅラが三つで三つずらすってことか」
アディオスの声が車内に響く。大きな声に驚き運転手の握るハンドルがぶれ、タクシーが路肩に乗り上げた。
「ちょいちょい、驚かさんでくれよ。ただでさえ免停寸前なんじゃから、事故ったら免許停止になっちまうよ。死活問題じゃよ」
運転手は頬を膨らませた。
「すまないです。えっ、運転手さんってこれまで何か交通違反しちゃってるの?」
「ああ、緊急車妨害等違反とその他もろもろ」
「緊急車ってことは救急車に道を譲らなかったとかいうやつですね」
「いや、パトカー」
「……じゃあ、その他もろもろとは?」
「追い越された赤色灯をつけたパトカーの後をついていったら罰せられた」
「どういうことですか?」
「いや、パトカーだったらルール守ってるから後ついていけば大丈夫って誰だって思うじゃないか。で、赤色灯つけて犯人を追っかけてるパトカーの後をつけて時間を稼いでたらスピード違反、信号無視、停車違反の三つを一気にとられた」
「ああ……緊急車両は右側通行の特例とか停止義務免除、最高速度も80キロまで緩和とかいろいろありますからね。マネしちゃだめですね」前川はオブラートに包んで指摘する。
「というか、あなたそれでもプロ?」
不二美はずばりダメ出しした。
「まあ、誰しも過ちはありますからな」
運転手は悪びれもせず頭を掻く。
「一般人でもしない過ちですがね」
アディオスは目をしばたたきながら諭した。
「それより暗号よ! ヅラ三つが後ろにずれてるから三つ後ろにずらすだったわよね」
「よし、前川。暗号の文字を三つずつ後ろにずらして言葉を完成させてくれ」
前川は「はい」とうなずくとメモ帳を開き、ぶつぶつつぶやきながら言葉を書き連らねだした。
暗号解読中にタクシーは目的地に到着した。運転手がアディオスに料金を請求してくる。
「はい、4560円です」
運転手はメーターを指している。到着時刻は3時45分だが、おやつ我慢料金はごり押し継続されたようだ。
「3時半超えたんだから残りは通常料金で」アディオスがドライバーに呼びかける。
「おやつ料金」ドライバーがすぐに返す。
「いやいや通常料金」
「お、や、つ」
らちがあかない。肥後もっこす同士の問答が続く。
「先輩、時間がなくなりますよ。大丈夫です暗号は解けましたから」前川が時計を指した。5分のロスが発生している。
「うぅん、うみゃむにゃ」アディオスは肩を怒りでふるわせながら財布から紙幣を取り出そうと中を見た。宝探し対策で五万円ほど下ろしてはいたが、小銭が足りない。
「くそう、小銭が足りない。不二美、前川、小銭を持たないか?」
二人が財布をせせくった。首を横に振る。
「じゃあ一万円から。お釣りは絶対ありで!」アディオスはお釣り請求を強調した。一円たりとも余計に渡したくない。
「すみませんお客さん。いま小銭を切らしていて、隣町のコンビニで両替してくるので待っててもらっていいですか? ほんの90分ほどですので」
運転手はとぼけた顔で巾着の中をのぞき込んだまま即刻で告げてきた。確信犯に違いない。
「ああもういいよ。じゃあ一万円。釣りはあとで請求するから」とアディオスは顔を真っ赤にして告げると「賞金をゲットしたら見せびらかせてやる」とつぶやいた。
「あとで請求ですね。わかりました。アメリカ経由の着払いでお送りします」
アディオスは頬を引きつらせて一万円を手渡すとさっさとタクシーを降りた。抗議している時間はない。
「さあ急ぐぞ」
アディオスは先陣を切って校門へと駆けた。
 校門をくぐると一旦立ち止まり辺りを見渡した。
「前川。暗号解読の結果を教えてくれ」
「はい」
前川はメモ帳を広げてみせる。アディオスは不二美とともに言葉をのぞき込んだ。
「『さくらのかげのせんたんをほれ』か」
アディオスは読み上げると前川を見る。前川は「間違いありません」と確信のうなずきを示した。
「まずは桜を見つけることだな」
三人は手分けしてグラウンドの東、北、西に生えた木を調べていった。
「あそこよ!」
北を担当した不二美が叫んだ。グラウンドを挟んだ向こう側で葉をすっかり落とした木を指している。アディオスは「前川、行くぞ!」軍を率いるナポレオンのごとく手で合図を送ると、真っ先にサクラへと駆けた。グラウンドの中央を横断して賭けていく。
「うぎゃっ!」
突然、足下の地面が落ちた。高速エレベーターで下りるような心臓が浮き上がる感覚。しつらえられた穴に落ちたのだ。
「痛っ」
穴の下へ着地するなりアディオスは声を発したが、下にはご丁寧に発泡スチロール材が敷かれており、思ったほどの衝撃はない。
「先輩、大丈夫ですか!」
前川が穴の上から罠にかかった英雄へ呼びかけてきた。
「だれだ落とし穴掘ったのは」
アディオスは前川に手を貸してもらい穴からの脱出を図る。ジャンパーが泥だらけになりながらなんとか這い出た。アディオスは恨みのこもった鋭い目で辺りを見渡す。
「見て、あそこでビデオカメラを構えている人がいるわ。こっちを映してる」
不二美が指す先には小型ビデオカメラを構えて撮影している男が見えた。黄色いジャンパーにはコスモステレビというロゴが入っている。地元のケーブルテレビのカメラマンに違いない。
「ケーブルテレビでどっきりカメラみたいな感じで放送するんじゃないですか」
前川は頬を引きつらせた。
「やられたな」
アディオスは前川とともに服についた汚れをはたき落とした。
「あとは落とし穴はないよな」
不二美の待つサクラまであと10メートル。アディオスは地雷を探るかのように足先でつんつんと地面の固さを確かめながら一歩ずつ進むアディオス。無事、桜の前に到着した。木の周りの地面を眺め回す。
「どこも土が盛られてて埋蔵金が埋められた場所は判別できませんね」
前川が渋い顔で告げる。 
「うぅん、おそらく落とし穴で取り出した土をダミーとしてばらまいたんだろうな」
アディオスがぼやくと前川もうなずいた。
「サクラの周りを全部探してたらキリがないわ。ヒントにあった『さくらのかげのせんたん』を探しましょ」
不二美がうながした。アディオスはサクラの影を探した。曇った天気ではサクラの影などうっすらとも見えない。
「影が見えないな」
アディオスは雲に隠れた太陽を恨めしそうに見上げた。ただ、雲の切れ間はある。うまく太陽が顔を覗かせれば望みはある。
「太陽が見えた瞬間、影の先端に印をつけるぞ」
アディオスは空を見上げたまま告げた。
「もう少ししたら太陽が出るわよ」
天を見上げていた不二美が声をあげた。東へと流れゆく雲。雲の切れ間まであと少しだ。うっすらと影が見え始めた。アディオスは影の先端を推測しスコップで印をつけようと構えた。
「ちょっと待ったあ」
突然、校門から大きな声が響いてきた。見ると、男性三人組がこちらへ駆けてくる。
「まずい、ライバルが現れたぞ、急いで掘り始めるんだ」
アディオスの指示に前川がスコップを受け取り掘り始めようとする。アディオスは「ここは我々が掘る権利を得ました」と言い放ち近寄れないように両手を広げ仁王立ちした。
「いやいや、私こういうものです」
先頭を走ってきた体格のいい中年男性が懐から黒い物を取り出して見せた。警察の紋章が目に入る。その下には警察手帳と記してある。
「え? 警察のかた?」
アディオスは目をしばたたいた。
「この辺りに爆発物が埋められているという情報を得て来ました。ここをどいてください」
警察手帳を手にした男がテノール声を響かせた。
「そんなわけないでしょう」
前川が抵抗するが、眼前に警察手帳を向けられ後ずさりした。やがて太陽が現れ、影の先端がくっきりと見えてくる。
「こっちが先だぁ」
アディオスは掘ろうとする男の肩をつかんでやめさせようとした。
「公務執行妨害になりますよ。本官の周囲3メートルは接近禁止です」
私服警官が再び警察手帳を見せびらかす。アディオスはエサを求める鯉のごとく口をぱくぱくさせて退いた。不二美が手首をつかんで後方へ引っ張った。
「え、なんだよ。埋蔵金を取られちゃうよ」
アディオスが情けない声をあげた。
「でも本当にあの位置が宝のありかなのかしら。おかしいわね……」
不二美が首をかしげる。
「何が?」 
「ねえ、考えてもみて。影って時刻によって位置が変わるじゃない」
「そういえばそうですよね。季節によっても長さが変わるし」
前川がうなずく。
「そういう場所のどこかにあるということじゃないのか? まあどっちにせよ、あの警官の周囲3メートルは侵入禁止なら太陽で影が出来る場所はどこも掘れないがな」
アディオスはため息をついた。
「でもヒントを与えるからにはピンポイントで隠し場所を示さないとおかしいですよ。だって制限時間は夕刻まで。何カ所も深く掘ってる時間はないわけですから」
「それはそうだな。午前中に着いていればまるきり違う場所が影の先端になるもんな。不二美、ほかにヒントになるようなこと言ってなかったか?」
アディオスが訝しげに前川を見る。
「そういえば、店の主が年中無休の場所って言ってたわよね」不二美が透き通る声でいった。
「ああ、そういえば言ってましたね。でもその年中無休って、ここは元学校なんだから公園扱いで年中つかえるという意味じゃないんですか?」
前川が解釈を示す。
「そんな当たり前の付け加えをするか? 宝の詳しいありかについてのヒントのような気がするが」
「ちょっと待って。影が年中無休で見えるってことじゃない?」
「はあ? 影は曇りや雨の日は見えないだろ。年中無休じゃ……あっ、外灯!」
アディオスは漏れ出た口を慌ててふさいだ。横目で警官らを見る。必死に掘り続けているようだ。「この辺りに外灯はあるか?」ささやき声にして辺りを見渡す。
「ほら、あそこ。北側にあるわ」不二美がサクラの北側にある外灯を指した。
「外灯が作る影なら年中見えますね」
前川がうなずいた。
「なるほど、太陽が南にあるから日中の影は北側にできるけど、夜は反対の南側に影ができるわけか。そりゃ見つかるわけがない」
アディオスは唇を噛んだ。
「遠目から見て外灯の先端とサクラの先端を結んだ延長上を調べればいいですよ」
前川の提案にアディオスはぱちりと手を打った。
「よし、外灯の影の位置を推測するぞ」
アディオスは駆け足でサクラを離れ、外灯とサクラの先端を結ぶ線が地面に到達する場所を見当づけた。
「あそこだ。急ぐぞ」
アディオスは前川とともにスコップをかついで駆けつける。前川はすぐに掘り始めた。
「さっきの落とし穴の深さから推察するに、深さは二メートル近くあるに違いない」
アディオスは肩や手首を回して掘る前の準備運動をした。
「さあ、掘りまくるぞ!」アディオスの雄叫び。
「ありました!」直後に前川が声をあげた。
「ええっ! そんな浅いの?」
アディオスはずるけた。ヒント作成に手間をかけて隠す場所は手を抜いたのか。泥を払いのけてみると銀色の鉄製容器が現れた。取り出して見ると何やら赤マジックで書いてある。
「『埋蔵金です』と書いてあるようだ」
「きっとこれですよ」
「よし、これを持って公園に戻るぞ」
アディオスが箱を抱えて校門へ向かおうとしたときだった。
「なんか見つけたみたいですよ」
と向こう側から野太い声が聞こえた。警官が奪わんとこちらへ駆けだしてくる。
「待ちなさい!」
不二美が前に立ちはだかった。その手には警官らに向けたスマホが握られている。 
「何か警察権力を不当に使ったら撮影して訴えるわよ」
不二美はスマホを警官らに向けた。動画を撮影している。
「あと、さっき警察のお偉いさんに電話して爆発物の通報なんてなかったってことは確認したから。後できっつくお叱り受けることになるわよ」
不二美に言い当てられた警官の足が止まった。警察以外の二人は不二美の発言に動揺を見せることなく不二美を取り囲むように場所を移動し始めた。スマホを奪い取るつもりに違いない。アディオスは不二美に近寄り声をかけた。
「ここは俺が引き受ける。早くタクシーへ」
アディオスは不二美からスマホを受け取ると三人に満遍なくスマホを向けながら撮影を続けた。その隙に前川と不二美は箱を抱えてタクシーへと乗りこんでいく。
「ちなみにこのスマホを奪っても無駄です。あちらを見てください。あそこにケーブルテレビのカメラマンも撮影してますからね。生配信かも。不当な強奪は証拠として残りますよ」
アディオスが指した先にはアディオスが不覚にも落とし穴に落ちた場面を撮影した男がカメラを構えて立っていた。
 警官らは唇を噛んだ。アディオスは撮影を続けながら後ずさり、ちらと男の方を見た。カメラマンの男はカメラをこちらに向け続けている。アディオスは警官らを指し「こっち撮影して」と大声で告げるとタクシーへと一目散に駆けだした。背後の男も「逃がすか」と追いかけてくる。
「うわっ!」
振り向くと男が落とし穴に落ちていた。もう一人の男は何事が起きたかと穴へと近寄りしゃがみ込んでいる。アディオスはかまわずタクシーへと走った。どうやら落とし穴の場所はいくつかあったらしい。落とし穴がまだあったからケーブルテレビのカメラマンは撮影を続けていたのだろう。
 アディオスは校門を出て坂を下るとふもとにとめてあったタクシーに向かって「乗せてくれぇ」と叫び手を振った。後ろのドアが自動で開く。アディオスは滑り込むように後部座席に乗りこんだ。続いて不二美、前川と乗りこんでくる。押しくら饅頭のようにぎゅうぎゅう詰めになるとドアが閉じた。
「公園へ行ってください! 早く!」
アディオスが早口で告げる。運転手は「わかりました」と素早くアクセルを踏んだ。その前にちゃっかりと料金メーターのスタートボタンは押している。
「それにしても何なんださっきの警官は。職権乱用だろ」
「このイベントに参加しているってことは非番じゃないの?」
不二美は額を拭きながらたずねた。 
「最近は非番でも警察手帳を持ち帰っているケースがありますからね」
「まあ、危機一髪で切り抜けられてよかったな。よし、埋蔵金を見てみようぜ」
アディオスの声に前川が銀色の箱の蓋を開ける。
「これは何だ?」
アディオスが素っ頓狂な声をあげた。中には五角形の木片が多数入れられている。その一つ一つに行書体で黒い文字が入れられていた。
「おそらく将棋の駒かと」前川がその中の一つを取り出して見つめながら答えた。
「将棋の駒かぁ。埋蔵金ではないじゃないか。フタの埋蔵金って言葉に騙されたか。まあこれで遊べるんならタクシー代の一部の補填と思えるけどな」アディオスは天を仰いだ。
「駒はそろっていませんね」
前川が駒の表を確かめながら指摘した。
「うぅん、数はこんなにたくさんあるのになんで種類が一つなんだ」
アディオスは50個近く入れられた駒をまさぐりながら書かれた文字を確かめた。
「全部、金だぞ。これじゃ将棋もできんぞ」
「ちょっと待って下さい。埋められた将棋の金が埋蔵『金』を意味するんじゃないですか?」
前川が上目遣いで指摘した。
「冗談きついよぉ」
アディオスが天を仰いだ。事実なら億単位の野望は潰えたこととなる。
「埋蔵金とは地面に埋めた将棋の金のことだったわけね……というか駒がベニヤ板適当に切って手描きで金てかいてあるやつばっかなんだけど……痛っ、ささくれもついたままよ」
不二美は薄っぺらい将棋の駒を手に取りつぶやいた。不格好な駒は大小様々で切り口はささくれだっている。三枚だけ販売品らしきしっかりした駒が入っている。
「先輩、でもこれが埋蔵金だとしたら公園まで持っていけば優勝で百万円がゲットできますよ」
「そうだな。よし、賞金百万円にターゲットを切り替えるぞ。こんな鎮撫なジョークは受け流すんだ」
アディオスは前方を見据えて言った。
 タクシーは良心的な値段を刻みながら公園へと疾走する。
「運転手さん、さっきのところにコスモステレビとかいうロゴの入ったジャンバー着た人がいたんだけど、地元のケーブルテレビか何かですか?」
アディオスはたずねた。
「ああそうだよ」ドライバーは無愛想に答えた。
「それでね。落とし穴に落ちたとこ撮影されたんだよね。何かドッキリ映像みたいなのを流す番組でもあるの?」
「ああ、スッキリテレビっていう地元の超人気番組だよ。イタズラをしかけて反応を楽しむ番組だ」ドライバーは一瞥もくれず前を向いたまま説明する。
「えっ、なんでドッキリじゃなくてスッキリというタイトルなの?」
「そうそう。番組を見ると気分がすっきりするからさ」
「なんでスッキリするの?」
「イタズラのターゲットがこの町を素通りする観光客だからさ」
「素通り?」
「そうそう。ほら、阿蘇とか熊本城とか魅力的な観光地しか眼中にない人たちが排気ガスだけまき散らして素通りしていくわけだよ。うちの町にお金を落とすのもコンビニくらいでね。我が町に見向きもしない旅行客にこの町を少しでも印象づけさせよう、そして町の存在を無視した旅人を見て鬱憤がたまった町民に旅人がぎゃふんとする場面を見てすっきりしてもらおうというコンセプトで始まった長寿番組なんだよ」
「どうやってターゲットを町民と見分けるんですか?」
前川がたずねる。
「県外ナンバーをつけてる車を探す。特に都会から来た人が引っかかるから都会のナンバーを探すね。地方を見捨てた罰じゃって、じいさんばあさんが特に喜ぶんだよね」
「でもそれって仕掛けられた人に怒られません?」
「大丈夫大丈夫、ドッキリって公表しないから。旅行者も行程があるわけで精査しないのよ。番組もこのあたりの地域で契約した家庭しか流されないんだから見ることもない」
「あんまりひどいことしてたら本当の観光客にそっぽ向かれるんじゃないですか?」
「うちの町を縦断する国道の両端に監視カメラがあって、ちゃんと行きに素通りした車だけをターゲットにしてるから大丈夫。関所の関税みたいなものさ。この町にお金を落とさないなら笑いを提供しろということ」
「どんなドッキリを仕掛けるんですか?」
「例えば信号待ちの時に熊が目の前を横切るとか、車の前をUFOに似せたドローン飛ばして驚かすとかね。それが本物の自然現象とか本物の超常現象だと思ってくれたらSNSでこのあたりも話題になるだろうしね」
「あくどいな。でも今回の落とし穴は行きすぎでしょ」
「いやあ、ちゃんとイベントの参加者には告知してあるんだから」
「へ?」
「ほら、チラシにちゃんとトラップをくぐり抜け宝をゲットって書いてあったでしょ」
不二美からチラシを受け取りトラップという文言を探す。隅っこの目立たない位置に発見した。
「トラップって体を張ったやつもあるわけね……」
アディオスは頬を引きつらせながらつぶやいた。 
「賞品をゲットするならそれくらい覚悟しないとねぇ」
「そんなことならなおさら負けられないな。優勝できなかったら落とし穴に落ちて恥をかきにきたようなものだ」
アディオスは鼻息荒くつぶやいた。 
 やがてタクシーは公園の西側入口に到着した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み