第16話 暗雲(前編)
文字数 1,059文字
文化祭が二週間後に迫っていた。編集作業も佳境に入り、映画がちゃんと完成するかどうかは、僕の体力とやる気にかかっていた。
鞄を背負って教室から出ると、廊下に林原がいた。
「よお、元気か?」
どうやら彼は僕を待っていたみたいだった。
「何か用か?」
前にあんなことがあったので、つい刺々しい態度になった。
「そうだな、まずは謝るわ。この前は殴っちまってすまん」
林原が頭を下げた。周りの生徒たちがそれを見て、「お、土下座か?」と囃し立てた。
「やめろよ、みんなが見てるぞ」
「少し時間をくれ。話があるんだ」
「話?」
その日は安西さんが部屋を見たいと言うので、家に招待して編集作業を手伝ってもらうことになっていた。ただ彼女との約束までにはまだ時間があった。それと林原にしては珍しく真剣な態度だったので、僕は少しだけ付き合うことにした。
曇天の中、学校を出ると住宅街にある古びた喫茶店に入った。夜はお酒を出す個人経営のお店らしい。学生が寄りつかないからちょうどいいと、林原が選んだ場所だった。
「あのさ、僕と安西さんなんだけど」
元彼の林原には伝えておいた方がいいと思ったので、注文したコーヒーが来る前に僕の方から口火を切った。
「付き合ってんだろ、奈子から聞いたよ」
「安西さんと話したの?」
彼女が今も林原と繋がっているのかと思うと急に不安になり、僕は真顔で聞いた。
「なんだよその顔。別によりを戻す気なんかねぇし。それにオレ、あいつに振られて落ち込んでいたんだぜ? 直子先輩の結婚報告を受けた時よりもな」
「待てよ、安西さんがおまえを振ったっていうのか?」
「姉貴との過去がばれたんだ。でもオレは知ってて付き合ってると思ってたし」
そういえば、直子先輩が安西さんにそのことを話したのは最近だと言っていた。だけどこれまでの安西さんの口ぶりから、僕はてっきり林原が彼女を振ったのかと思っていた。
「でもそれだけじゃない。安西さんに言ったよな、直子先輩と比べてブスだって」
「まさか、冗談だろ? 女はただでさえおしゃべりなのに、そんなことを口走ったらすぐにうわさが広まって学校中の女子から除け者扱いだぜ」
たしかに言われてみればそうかもしれない。他校の女子から恋愛相談を受けるような林原が、そこに気がつかないとは思えなかった。だとしたら、あれは僕の勝手な思い込みだったのだろうか。
「それより今は手嶋の話だ。どうやら彼女、いじめにあっているらしい」
林原の話を聞いて、僕は耳を疑った。
ザザザッ。
心臓の鼓動が早くなり、右耳が激しく警笛を鳴らしていた。
鞄を背負って教室から出ると、廊下に林原がいた。
「よお、元気か?」
どうやら彼は僕を待っていたみたいだった。
「何か用か?」
前にあんなことがあったので、つい刺々しい態度になった。
「そうだな、まずは謝るわ。この前は殴っちまってすまん」
林原が頭を下げた。周りの生徒たちがそれを見て、「お、土下座か?」と囃し立てた。
「やめろよ、みんなが見てるぞ」
「少し時間をくれ。話があるんだ」
「話?」
その日は安西さんが部屋を見たいと言うので、家に招待して編集作業を手伝ってもらうことになっていた。ただ彼女との約束までにはまだ時間があった。それと林原にしては珍しく真剣な態度だったので、僕は少しだけ付き合うことにした。
曇天の中、学校を出ると住宅街にある古びた喫茶店に入った。夜はお酒を出す個人経営のお店らしい。学生が寄りつかないからちょうどいいと、林原が選んだ場所だった。
「あのさ、僕と安西さんなんだけど」
元彼の林原には伝えておいた方がいいと思ったので、注文したコーヒーが来る前に僕の方から口火を切った。
「付き合ってんだろ、奈子から聞いたよ」
「安西さんと話したの?」
彼女が今も林原と繋がっているのかと思うと急に不安になり、僕は真顔で聞いた。
「なんだよその顔。別によりを戻す気なんかねぇし。それにオレ、あいつに振られて落ち込んでいたんだぜ? 直子先輩の結婚報告を受けた時よりもな」
「待てよ、安西さんがおまえを振ったっていうのか?」
「姉貴との過去がばれたんだ。でもオレは知ってて付き合ってると思ってたし」
そういえば、直子先輩が安西さんにそのことを話したのは最近だと言っていた。だけどこれまでの安西さんの口ぶりから、僕はてっきり林原が彼女を振ったのかと思っていた。
「でもそれだけじゃない。安西さんに言ったよな、直子先輩と比べてブスだって」
「まさか、冗談だろ? 女はただでさえおしゃべりなのに、そんなことを口走ったらすぐにうわさが広まって学校中の女子から除け者扱いだぜ」
たしかに言われてみればそうかもしれない。他校の女子から恋愛相談を受けるような林原が、そこに気がつかないとは思えなかった。だとしたら、あれは僕の勝手な思い込みだったのだろうか。
「それより今は手嶋の話だ。どうやら彼女、いじめにあっているらしい」
林原の話を聞いて、僕は耳を疑った。
ザザザッ。
心臓の鼓動が早くなり、右耳が激しく警笛を鳴らしていた。