第22話 ②

文字数 872文字

裕也は正人を一瞥してから扉を開け一歩踏み出しかけてドンと人にぶつかった。
「あっ、痛ったたたあっ」
「あ、すみません」
 衝撃をうけた鼻を右手でおさえて二歩下がり、前に立つ女の人にぺコンと頭をさげた。
 彼女は眼を丸くしてしげしげと裕也を見たが、やがてクスッと笑った。

「へぇ。偏屈で名高い退魔師の一ノ谷正人が弟子取ったって言うから。
 どんな子かと思って見に来たら。ふーん! へええっ! ほおーっつ!」
「……なんですか。その感嘆符!」
「いやぁ。こんなに可愛い。いやっ、えーと、これは隠しておきたいわよね。弟さんにそっくり、秘蔵っ子って言われるのもわかるわぁ」
「秘蔵っ子?それ、僕の事ですか?」

「そうそう、君、退魔師仲間じゃすっかり有名になっちゃてるわよ」
「有名……そうなんですか」
「襲われないように気をつけなさいね。正人はショタコンなんだから」
 女性はこそっと裕也に耳打ちした。
「はぁ? 襲うって……」
「聞こえてるぞ。美鶴さん。裕也君、うのみしなくていい」
 人格否定された正人は女性をきっと睨みつけた。

「大道寺美鶴さん。いったい何しにいらっしゃたんですか」
「何しにって、だからぁ。お弟子ちゃんの顔見にきたのよ。うふふ。邪魔したわね。じゃ、君またねっ」
 美鶴が事務所を出て行くと同時に閉まる扉にバンとクッションがぶつかった。
「はぁー。全く油断も隙もない。四日でどうしてこんなに広まったのか」

 この四日の間に裕也を内弟子にしたことを、裕也の両親に報告に行ったり、生活用品を買い整えたり、二人一緒に連れだって歩くことが多かった。
 町中つれまわしたのだから、退魔師仲間の誰かに見られていたとしても不思議ではない。

「さっきの人はどうゆう方ですか」
「願福寺の住職の娘さんだよ」
「そうなんだ」
「霊を成仏させた方が良いことも多いから、古いお札や、霊が写りこんだ写真の事後処理をお願いしてる」
「なるほど、仕事つながりなんですね」
「まぁ。そうだ」

「じゃ、ぼく買い物に行ってきますね」
「ああ、わかった。行っておいで」
正人は裕也についていくのをあきらめて、ひらひらと手を振った。
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