文字数 867文字

 永遠をやろう、と。男は囁いた。

 男は、常に独りだった。己の存在を認識した瞬間から孤独を友とし、数々の辛苦に耐えて生きてきた。孤独を愛し、ヒトビトを、カミを憎悪し生きていくはずだった。
 しかし、転機は唐突に訪れたのである。
 それは、彼に喜びを与えた。胸踊るような温かさを教えた。これまで味わったことのない多幸感は彼を夢心地にさせたし、己を誰よりも恵まれた者と有頂天にもさせた。
 そうして、彼は囁いたのだ。永遠をやろう、と。

 共に歩み、傍らにおまえを置くために。そうして終わらぬ夢の中、甘い甘い泉の底で、いつまでも溺れていよう。

 熱っぽい眼差しが愛する者を見詰め、男は愛し気に手を取った。愛しい、と囁く言葉は緩やかに彼等を蝕む毒に似て、甘い夢へと浸らせた。
 それがいつしか、失われるかも知れないという恐怖を押し隠して。彼はまだ、夢に囚われ水底に沈んでいるのだ。
 
  ◇◆◇

 永遠だなんて嘘、と。女は呟いた。
 
 女は、多くの者に囲まれていた。無二の友と呼べる者もあり、誰もが順風満帆の人生と羨んだことだろう。女は勿論、それを大層幸運なことだと弁えていた。
 しかし、転機は唐突に訪れたのである。
 それは、彼女に哀しみを与えた。凍えるような孤独を教えた。これまで味わったことのない絶望にうちひしがれる彼女は、けれど同時に救いの手を得た。
 そうして、女は呟いたのだ。永遠だなんて嘘、と。

 あなたに与えられる温かさを疑うつもりはないの。けれどそれだって、いつか終わりを迎える。きっと、わたしが置き去りにしてしまう。

 青白く凍えた手を握り、物言わぬ亡骸へ縋り付いた日を思う。安らかに、と囁く言葉はいつか己に跳ね返り、この魂を愛する者の元から容赦なく奪い去っていくのだろう。そうして今度は、彼へ哀しみを教えることになるのだ。
 それだけではないのだと、その時までに伝えられたらいいのだけれど。
 そしていつしか、失われた者を悼むとき、彼の人が哀しみに塗り潰されぬようにと。彼女はただ、その傍らで祈るのだ。
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