第3話 萩島から聞く異世界奇譚

文字数 964文字

 萩島が転勤してきたとき、「あっ」って思った。

 俺は正直言って男やオバサンには一切興味が無い。若い女の子しか目に入らない。
なのに萩島には目が釘付けになった。

 背が高く、男臭くてちょっと圧があるな。
今の時代はフェミニンで中性的な男の方がモテるらしいよね。だからイケメンはイケメンだけど、好みが分かれるかもしれない。
目が奥二重で俺と一緒だ。笑うとクシャッとする。少し垂れ目なのか。
見ていると動作がガサツ、シャツの裾がはみ出しがち。それも俺と一緒なんだけど。

 気がつくと俺は最近、萩島のことばかり見ている。
もし俺が女で萩島とつき合ったら、どんな風に抱いてくれるのだろうかと、そこまで想像してしまった。結構詳細に。萩島の指は長くてきれいで、妄想をかき立てられる。
あいつ、沼だな。


 都内支店の営業担当だったらしい。適任だと思う。感じいいもん。
時期外れの8月に、こんな流刑地のような東北センターへ飛ばされるなんて、絶対になにか訳があるに違いない。
俺は我慢できずに食堂で萩島に話しかけた。俺はポジティブなオタクなのだ。

「ねえ、ここへは希望したの? それともなにか訳あり?」


 びっくりした! セフレを捨てたらセクハラ通報されたんだって! お仕置き人事じゃん。

 俺は萩島の話を、異世界奇譚のように聞いた。もちろん相方の鏑木課長もね。
後日、萩島に『恋愛支援給付金アプリ』をダウンロードさせて、給付金を申請させたときのくだりは、今思い返しても笑えてくる。

 鏑木課長から聞いた、中高年のオタサーみたいな変な話は全然興味が湧かなかったけど、萩島の話は面白い。ちょこっとしか話してくれなかったけど。

 セフレと水族館で見たという絶滅危惧種『イトウ』が、給付金事務局のテロップで伏線回収してウケたよね。
萩島の目が唖然としていて、俺我慢できずに笑っちゃった。
そのあと萩島、さほど狼狽えずに、「そんなに笑わないでくださいよぉ」なんて言って頭をかいていた。あいつ大物。
 萩島ってなんて言ったらいいのかな、自分のことなのに他人事みたいなんだよな。引きで見ているみたい。営業スマイルのできる低温動物のような印象がする。

 鏑木課長といえば、あれから萩島に対して腰が引けている。
“セフレ”が刺激強すぎたんだと思う。
俺が言うのもなんだけど、鏑木課長は女に幻想を抱きすぎている。

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