雨と嘘とミルクティー

文字数 621文字

4月1日はエイプリルフールだと知ったのは、多分、小学生くらいの時だ。

「嘘をついてはいけません」

そう教えられてきた私達は、

「嘘をついていい」

その日をとても興味深く心に刻んだ。
そんな純粋な頃があったのだ。


「…………あ、雨……。」


ひとり、沈黙の中でマグカップを眺めていると、ドドドドド……と言う大地を叩く音がした。
そう言えば今日は突然の雷雨にご注意下さいと天気予報が言っていた。
家に帰ってからで良かったなと思いながら、外を眺める。

雨のもたらす静寂が好きだ。
しとしと降る雨も良いが、この突然の雷雨の様な有無を言わさず全てを黙らせるような沈黙も悪くない。
最も、それは安全な家の中にたどり着いていた時に限るけれど。

「……嘘、か……。」

大人になると、嘘をついていい日と言われても、何もわくわくしない。
日常に嘘が溢れかえっているから、すでにお腹がいっぱいなのだ。

私はゆっくり、程よく冷めたミルクティーを口にする。
とろりと温かい甘さが心と体に染み渡って行く。

嘘はつかなかった。
私は何も言わなかった。

突然の雷雨の様に、私は有無を言わさず沈黙を守った。

「嘘をつければ、何か変わったのかな……。」

でも何を言えばよかったのだろう?

むしろ今、嘘だよ、と言ったら笑ってくれるだろうか?

ドドドドドド……と大粒の雨が街に降り注ぐ。
さざめく雑音を有無を言わさず黙らせるように。

雨のもたらす静寂が好きだ。

私はゆっくり、ミルクティーを味わう。
胸の中にある微かな苦味を誤魔化すように。
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