第5話

文字数 2,342文字

ミュータントウォーズ・新人類戦記第一章(1980年作品)第5回 ベトナム・クチニン村へカンボジア軍の報復攻撃があり、村人全員がつかまり殺されようとした。その折紅蓮の殺戮世界が出現した。その中心は少女ジウだった。
2024/06/07(改稿)ミュータントウォーズ・新人類戦記第一章(1980年作品)第5回 ベトナム・クチニン村へカンボジア軍の報復攻撃があり、村人全員がつかまり殺されようとした。その折紅蓮の殺戮世界が出現した。その中心は少女ジウだった。
ミュータントウォーズ・新人類戦記第一章(1980年作品)第5回
(アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)
ミュータントウォーズ・新人類戦記第一章(1980年作品)第5回

残念ながら、ベトナムは戦火が絶えたことはないのだ。アメリカ軍が
介入した第二次インドシナ戦争は十一年と1ヵ月続いた。現在のカンボジアとの抗争は第
三次インドシナ戦争と呼ばれている。
 村長があらわれ、竜とハイ・ニンを歓迎した。先程の娘は村長の孫ジウという名前
であることがわかった。
ハイ・ニンはこの村キエンジアン省クチニン村が襲撃され、さらに外
国記者団が殺されたことを知らせるために、
近くのベトナム人民軍を呼びにいくことにした。村には連絡方法がない。カンボジア軍が電線や
アンテナを破壊していた。
 竜は1人残り、村長の家へ泊まることにした。
 村長は竜に話を始めた。このカンボジア兵に襲われる原因となつた『クチニンの虐殺』
の事件のことをである。
「この事件の時には、誰も生き残ってはいなかったのすか、村長」
「竜さん、それはそれは今思い出しても身の毛のよだつ思いがするのです。皆、銃や剣でめった撃ちにな
の世の終りの光景かもしれんと思った。草原が、林が血でまっ赤に染まって謡ったからね。それは
先程のこの村のカンボジア兵の攻撃や虐殺どころではなかった」
 村長の言葉がしばらくとぎれた。
 「竜さん、ワシにはとても人のやった事とは思えたんだ。異世界から悪霊がやってきて、人々にと
りついたとしか思えんほどなんじゃ」
 「最初の発見者は誰なんですか」
 「それが……」
 村長はいいにくそうだった。
「膿の孫のジウなんじゃよ。あの娘はその時以来ショックを受けてふさぎこんでいるんじ
や。あの子も不惘々娘でな。何年もの間、神
隠しに訟うどフたんじや」
「神隠しですって」
「そうなんじゃ。何年間も行途不明になっていた
んじや。三年前ベトナム人民軍によるベトナム解放
(南北ベトナム統一)後、ひょっこり
もどってきたんじや、その3年間のことは全然憶
えておらんのじや。帰ってきたときも異様な感じだった。まるで
別の世界にいってきたかのように」
 竜の心の中に確信が生じてきた。それでは
やはりあの子は……
 村長の家のドアを急いでたたぐ者がいた。
「村長、村長、大変だ」
 村長は急いでドアをあけた。
 「何事だ」
 おびえている村人の後にはAK47突撃銃を
えたカンボジア兵の姿があった。
 「お前が村長か。よし、家族や家にいる者はみんなついてこい。
村の中央に全員集まるんだ」
 村の広場には、人々が集められていた。
指揮官らしき男が台に立ち発言した。通訳がついて
話しはじめる。
 「この村の中に、先日の『クチニンの虐殺』
の真相を知っているものがいるはずだ。名の
り出ろ。名のりでない場合は、村人を1定時間で一人ずつ殺して
いく。いいか、我々カンボジア軍は本気だ。それは先刻の
攻撃でよくわかっていることと思う」
 カンボジア兵が、村の家々に火をは々も始め
た。一人の少年がそれを見て、自分の家へ帰ろうと親の静止をふりきり、走りだそうとし
 カンボジア兵は山刀で、ジウの目のお前を走りすぎようとした少年の首をはねあげた。
土ぼこりと絶叫を残し、少年の体はもんどりうち倒れた。
 ジウが悲鳴をあげた。
■ 一瞬、目のお前の光景が一変した。ジャングの原色が、家々の家が消え去か、ただ深紅
一色の世界となる。
 目に見え次い力が人々をとらえ、一つの異世界へと導くようだった。強暴な精神のエネ
ルギーが吹きあれ、人々を狂気へとかりたてた。
 修羅の世界であった。
 カンボジア兵や村人は武器を用いて、また武器を持たざる
者は各が四肢を用いて生きとし生きける者を
殺戮しようとしていた。
村人の老いも若きも、男も
女も、カンボジア兵も、ベトナムの村民も、
一つの意志にとりつかれていた。
自分の側にいえう生物を屠るという強い意志であった。
 竜もまたその突然出願した異界へと投げこまれていた。
彼は自らの持てる殺人技能を駆使し、竜に襲い掛かる
カンボジア兵の骨を折り肉を破った。
竜も手が、足が血にそまっていた。
返り血が体じゅうを覆う。
 一瞬の血の生臭さが、竜をもとの世界へ立
ちもどらせた。
彼は殺人の場において、生き生きとするのであ&
殺人の場が竜の正常世界でもあったのだ。
台風が収まるかのごとく、
竜の目のお前の緋色の世界は鮮やかな原色の世界にもどりつつあった。
まるで映像のカメラフィルターがはずれたようであった。
累々たる屍体の山である。人々はまだ争い、
殺しあっている。
 しかし、竜は見た。
ただ一人、ジウだけが、、すっくと立っていた。
 彼女の地獄の業火に燃えているようであっ
た。
いや、この異界の炎そのものなのだ。
彼女の髪の毛はさかだって周りは燃え上がっているようだ
。この世界は彼女中心に動いているのだ。
 この深紅の世界を動かしているエネルギー
は彼女の心から発しているのだった。
この世の地獄を現出させているのは、彼女のそのもの
の存在なのだ。
 竜は彼に襲いかかってくる人間をなぎはら
いながら、彼女に近ずこうとした。
ミュータントウォーズ・新人類戦記第一章(1980年作品)第5回
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