第3話 ペットショップの散歩①

文字数 1,055文字

 気がつくと近未来感のある京都駅の風景が窓の向こうにあった。京都には犯人の移送で坂田と共に来たことがある。晩飯に桂川沿いの小料理屋に入ったが、川を眺めながらの酒は美味かった。
 そこまで考えたところで俺はまた別の事件を思い出す。探偵となった坂田に依頼した事件だ。ペットショップのオーナーが川縁で死体となって見つかった事件。殺人だった。
 ペットショップのオーナーの名は柏木由美。都内に五店舗を構える四十三歳の独身女性。柏木は陽気な春の昼下がりを散歩しようと、遺体発見現場から五百メートルのところにある本店から犬を連れて出て行き殺された。殺害方法はもみ合いの末、川に突き落とされた際、頭部を岸壁に強打したと鑑識が結論を出した。
 第一発見者は近隣住民だが、捜査一課としては、柏木と待ち合わせていた恋人の白川雄二がやったのだと見立てている。
「柏木が殺されたのは、ペットショップから出て、白川と会うまでの間ということだな」
「殺害現場近くで待ち合わせていたそうだが、白川が云うには彼は三十分ほど遅刻して到着し、周囲に彼女が見当たらず電話を掛けても反応がないから急用でもできたのだろうと帰ったとのことだ」
「犬はどうなった?」
「殺害のタイミングで逃げ出したんだろう、近くに住んでいたホームレスのところで発見された」
「なるほど。あとは……白川は殺害を認めていない、ということだな」
 坂田は百合ちゃんに食べさせるスパゲティを茹でながら云った。
「ああ。なにせ白川は妻子持ちだからな」
「不倫関係か。動機はそのあたりのもつれと見ているんだな」
「捜査一課としてはそうだ。しかし二人のスマホを調べても別れ話が出ていたようにも感じられず、犯人と決めつけるには少々頼りないと思っている」
「それでここに来たと」
「頼めるか?」
「犬の種類を聞きたい」
「犬種? 覚えていないな。ペットショップで並んでいるような犬だと思うが」
「至急で調べてくれ」
 そう云うと、坂田は出来上がったナポリタンにゆで卵を乗せて百合ちゃんのいるリビングへ運んだ。俺は首を捻りはしたが、署に戻って調べ、坂田に柏木が散歩に連れて行ったのは幼いチワワとショップが看板犬として飼っているゴールデンレトリバーであったと伝えた。
 すると直後に坂田から電話があって、白川以外に犯人がいるのは確実だろうと話し、ペットショップの人間が怪しいから調べてみると云った。俺は坂田の主張の理由がさっぱり分からなかったが、捜査一課の連中が白川に強引な自白を迫ろうとするのを牽制しながら坂田の調査結果を待った。
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