第二夜:努力と才能

文字数 481文字

 こんな悪夢をみた。
 
 今でもハッキリと覚えている。
 大音量の音楽と観客の声援の中で名前が呼ばれる。手を上げて、一礼して。ゴーグルの位置を直したり、体をたたいたりして、形だけは大会慣れしているように振る舞う。
 ピッ ピッ ピッ ピッ ピー
 短く4回。長く1回。何度聞いても聞きなれない笛が鳴る。
 静まり返る観客席。そして。
 ポッ
 電子音が聞こえたと同時に水の中へ飛び込む。無音で無重力の世界。ここなら私は自由だと、味わう一瞬の快感。・・・でも、次に顔を上げたとき、私の耳に響くのは、大音量の音楽とヘイヘイと言うコーチの掛け声だ。一気に現実に引き戻される。
 そうだ。前に進まないと。
 私は必死で手足を動かそうとするけれど、鉛でもつけているかのように重くて動かせない。焦れば焦るほどフォームはめちゃくちゃになり、息が苦しくなる。水中で息苦しいと感じたのはいつぶりだろう。
 クルシイ・・クルシイ・・・ダレカタスケテ・・・・
 
 いつもここで目が覚める。
 「好き」が「嫌い」になる瞬間。
 苦しい。そう感じた時から、私は水泳が「嫌い」になった。
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