第一夜:飛べない蝶

文字数 883文字

 こんな悪夢をみた。

 あるところに一つの小さなさなぎがあった。あまりにも小さすぎて、よくよく注意しなければ見落としてしまうくらいだ。外ははげしく雨が降り、冷たい風が吹いている。さなぎはそれに耐えていた。今、外に出ては死んでしまう。もう少し頑張ろう。左右に体を揺らしながらそう考えていた。やがて雨が上がり、暖かな光が差し始めた。やがて、さなぎの中からは、赤色にきらめく美しい蝶が出てきた。
 外!  外!  外!  自由!  自由!  自由!
 蝶は羽をはばたかせ、自由になった喜びをかみしめながら空高く飛んだ。そして・・・
 ピカッ ゴロゴロゴロ ザーーー
 そして、自由になったその日に、突然降りだした雨と雷によって傷ついた。左の羽は完全に折れ、右の羽はもう動かせないほどボロボロだった。そして蝶は地面に落ちて、ながいながい眠りについた。

 次に目覚めたのは、蝶がはじめに羽ばたいてから三度目の春だった。蝶は生きていた。蝶は注意深く辺りを見回し、控えめに羽を動かした。休んでいる間に回復したのだろう。左右の羽は大きく美しく、前よりも強いものだった。今度は、大丈夫。蝶は風に乗って飛んだ。そして・・・
 バサリ ブチッ ブチッ
 そして、目覚めたその日に、心無い人間に捕まって傷ついた。左右の羽を力任せにむしり取られ、体をへし折られた。地面に叩きつけられた蝶は、またしてもながい眠りについた。


 次に目覚めたのは、蝶がはじめに羽ばたいてから八度目の春だった。蝶は生きていた。蝶は辺りを警戒し、頭上も注意した。そして力強く羽を動かした。左右の羽は大きく美しく、前とは比ものにならないほどだった。今度こそ、大丈夫。蝶は空へ羽ばたいた。そして・・・
 ゴォォォォーー  ゴォォォォォーーー
 そして、目覚めたその日に、突如発生した竜巻によって傷ついた。左右の羽は粉々にすりつぶされ、塵となった。蝶―いや、もう蝶とは呼べないその物体―は、激しい風に煽られて地面に落ち、またしてもながい眠りについた。

       次に目覚めたとき、蝶は幸せを感じるだろうか?

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