出会いの名古屋

文字数 1,634文字

 『恋ステ』最初の週の舞台は名古屋だった。翔くんを含む男の子4人と私を含む女の子3人の7人で恋の旅は始まった。中部国際空港にて参加メンバー同士の自己紹介を終え、私たちは最初のデート場所である東山動物園に移動していた。入ってすぐのところでサイが鎧のような体で私たちを迎えた。その場所からゾウが見えたので、みんなで一緒にゾウの場所に向かおうとした。その時、翔くんが私を誘ってくれた。
「クレアちゃん、2ショットいい?」
「え、うん、いいよ!」
翔くんと私は他の5人と別れて園内にある東山スカイタワーに登ることにした。展望台は地上100メートルのところにあり名古屋市街が一望できた。
 翔くんは、最初に空港で出会った時からずっとかっこよかった。私は一度だけあるアイドルグループのコンサートに行ったことがあったけど、そのアイドルが放っていたオーラと同じオーラを目の前の翔くんが放っているように感じた。
「急に誘っちゃってごめんね。」
「ううん、嬉しかった。」
「高いところ、苦手じゃない?」
「あたし高いところ好きなんだよね、背が低いからさ!」
それを聞いて翔くんは少し考えたような表情をした。
「さっきは大丈夫だった?」
朝、私が自己紹介した時、一人の男の子がハーフの子は背が高いイメージがある、と言い出した。そして私の背が低いことを追い打ちをかけるようにいじったのだ。他の男の子も「たしかに〜」と言って笑っている中、翔くんはその時だけ笑顔を封印していた。そのことを翔くんは気にしてくれているみたいだった。
「全然、慣れてるから。私、ロシアの叔父さんからいつもマトリョーシカに例えられているの。」
マトリョーシカ、ロシアの民芸品の丸っこい形の人形である。胴体の部分で人形をパカッと上下に開くと中にもう一つ同じような人形が入っている。それをもう一度同じように胴体の部分で人形を開くと、また同じような人形が入っている。それが何層にも入れ子状態になっている。大抵の場合その人形には、丸顔でクリクリっとした目の女性が描かれている。叔父がいうにはそれが私に似ているというのだ。私は親戚の中でもひと際身体が小さかったから、小さなマトリョーシカの人形に例えられていた。
「マトリョーシカ、僕は好きだけどなあ。」
多分翔くんは言葉を選んでくれたと思う。私はそれが嬉しかった。
「最初は、それがけなされているような気がして悩んだ時期もあったの。でも確かに似ているし、だんだん自分の分身のような気がしてきたんだよね!」
気になっている男の子と二人で話すのはとても緊張したけれど、翔くんは何でも話してしまいそうになる雰囲気があった。全て受け止めてくれる優しさがあった。
 その後、私たちは展望台の上から、名古屋の町並みを見下ろして名古屋城やナゴヤドームなどの建物を先に探す対決をして遊んだ。昔からの幼馴染に久しぶりに会ったような感覚になった。
 
 次の日、大須の商店街でみんなで食べ歩きした時、私は翔くんを2ショットに誘って、手のひらサイズのマトリョーシカを渡した。叔父はロシアから広島の私にマトリョーシカをよく送ってきた。渡したのはその中でも私が小学校に入学した記念でもらったマトリョーシカだった。
「そんな大切なものを僕に預けちゃっていいの?」
翔くんは困ったような笑顔だった。
「うん、1週間会えない間忘れないで欲しいから。これ、私だと思って持っててくれたら嬉しい。」
多少、強引に渡してしまったけれど、会えない間にも私のことを思い出して欲しいと思っていた。私が翔くんと2ショットしたあと、京都出身の美和ちゃんも翔くんのことを2ショットに誘っていた。少し気になったけどまだ私が有利だと確信していた。なぜなら、2ショットの時に翔くんはこう言ってくれたから。
「俺が気になってるのクレアちゃんだけだからね。」

 名古屋の出来事を思い出しながら私は眠りに落ちて、気づいたら横浜に到着していた。
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