09. 冷たい手

文字数 310文字

どんなに擦っても冷たいまま。
どんなに呼んでも振り向かないまま。
どんなに望んでも還らないまま。

人の死を3つ知ってる。
一つは小学低学年の時。
クラスメートがある日来なくなった。
先生が暗い顔で告げる。
貰ったハンカチーフが嬉しかった。
私は子供で何もわかっていなかった。

一つは小学低学年の時。
母の姉の夫の母のお葬式。
初めて人の死に顔を見た。
それは白く、ただ白かった。

一つは高校3年。
伯父さんが死んだ。
病気で長くないことは知っていた。
よく持ったほうだと思う。
月が煌々と雲の間から覗いていた。
慌ただしい親族の顔。
呆けた従姉妹の顔。
疲れた父の顔。
全てが私にとって無関係に見えた。

その冷たい手は二度と握り返してくれない。
ただ骸が転がるのみ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み