第3話

文字数 901文字

わずかに遅れて聞こえていた声もだんだんと小さい人に追いついてくる。小さい人はしゃべるごとにどんどんたのしそうになっていく。口を開くたびに子犬が笑ってる感じのスタンプが空中に湧き出してくる。ぽこぽこした音とともにスタンプが湧き出てくる。どんどんどんどん湧き出してくる。まるでにぎやかなシャボン玉みたいに。

小さな人は真っ赤なほっぺで腕を広げているけれど、どうしても今日のオオカミを表現するには足りないようで。両手の先にある宇宙にまで手を伸ばそうとしている。

「わかりましたわかりました。それはこれくらい大きかったのですね。」
僕は手を広げて見せる。
部屋の空気がわくわくしてきている。少し眩暈がするような気がする。小さい人がこの部屋の空気を黄色とオレンジに塗り替えている。

小さい人は僕の両手の指先を交互に見て僕の顔を見る。目をキラキラさせて、ぱちぱちさせて僕を見ている。

「ええ!ええ!そうです。いえ!いえいえ。いえいえいえ。もっとです!もっともっとです。もっともっともっとだと(だと)、思います!(思います!)」

小さい人は小さいままでどんどん大きくなる。あのガンダルフがビルボの家ですごい怒った時みたいに。ぐんぐん存在感が増していく。
声も。ついに小さい人を追い越して、口を開く前に僕の鼓膜が震えている。音の壁をこえて、二重に重なって聞こえてくる。

「もっともっと、もっともっともっと。もっともっともっともっともっともっと、、」

口から色とりどりの音符が飛び出し、やがて小さい人の後ろで花火が上がりだす。リボンをくわえた白い鳩がいっせいに飛び立つ。

続けざまに。大きな拍手と大歓声がおきる。目の前で無数の火花が爆ぜる。夜の空が宇宙の誕生のようにきれいで。無数のミラーボールが回りだし光のシャワーが降り注ぐ。ああ、なんてきれいな宇宙なんだ。まるで花火の爆発するその中心で、四方八方に広がり瞬く火花を見ているような。なるほどな。これは、ちょっと、ダメだな。

これはダメだ。この小さい人は普通じゃないな。気付いた時には手遅れで。気付いた時には手遅れてありました。フェードアウトする僕の意識。そして、

(時空がぐにゃぐにゃとゆがむ)
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