第8話 サイコキネシス

文字数 1,057文字


俺の職場の知り合いが行方不明になった。

無断欠勤が三日続いた時とりあえず一番親しい友人という事で俺が様子を見に行く事を(おおせ)せつかったが実際には仕事中に何回か話をしただけで親しくなどなかった。

そういう人見知りというよりあまり人と関わりたく無いという人間は科捜研に多い。

俺もその中のひとりだが一番下っ端という理由で面倒な役を押し付けられたんだろう。

しぶしぶ無断欠勤野郎の部屋に行くとやはりインターホンに反応はない。

仕方なく大家にお願いして中を確かめさせてもらうことにした。

万が一、変死体なんて姿になってたら職場の責任が問われるからだ。

しかもよりによって科捜の人間と言うことが世間にバレればワイドショーの格好の餌食になりかねない。

俺は大家と一緒におそるおそる部屋の中を確かめた。

「おーい、居るか?」

返事はない。

風呂場やトイレなど隠れられそうなところは調べたがやはり居ない。

俺はとりあえず安堵した。

とりあえず死んではいない、消えただけだ……だとするとただの失踪、そんな事はみんなが知らないだけでいくらでもある。

しかもこの仕事なら尚更だ。

「居ませんね」

大家が呑気な声でそう言って窓を開け籠った空気の入れ替えをした。

俺は何の気無しに見た窓の横のベッドの上にあるものに目が釘付けになった。

四角い箱の様なオブジェ。

間違いない、この前変死体があった部屋に置かれていた謎のオブジェだ。

その死体は無数の針で貫かれた様な無残なものだったにも関わらず凶器は発見されず、更に密室というとんでもない事件。

ほぼ迷宮入り確定の様な事件なので警察も表沙汰にしないがそこで死体が握っていたのがこのキューブだ。

科捜研で更に調べる為に証拠品として保管していたはずなのだが忽然と消えたと思ったらコイツが持って帰ってたとは……。

「とりあえず居ないみたいなんですがどうしましょう?」

大家の声で我にかえった。

「そ、そうですね。失踪……とは断言出来ませんが一応親御さんに連絡した方が良いかもしれませんね。あと家賃の事もあるでしょうし」

「そうなんですよ。こういうのは一番困るんですよねぇ、部屋を片付けて良いのかどうかもわかりませんから」

「ですよねぇ」

俺はありきたりの会話をしながら突然声のトーンを上げた。

「あ、あれぇ?あんな所に科捜研で紛失していたキューブが!」

「へ?」

「アレですよあれ?あのキューブ!こんな所にあったなんて!見つかって良かったです」

「はぁ……それは良かった」

少しわざとらしいがこれで持って帰る口実ができた。

勿論、俺は科捜研に持ち帰る気はさらさらなかった。
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