第20話 6月19日 融と樹
文字数 1,272文字
二人は壁にもたれて並んで座っていた。
樹は芯が消えた人形みたいにふにゃりと座っている。
感情が爆発して暴れたからぐったりと疲れてしまった。頭は真っ白で何も残っていない。体はぴくりとも動かない。
キャパも無いが体力も無い。
「・・・融君。・・ねえ。すごく泣いたから頭が痛いの。ガンガンする。・・頭痛薬はあるかしら?」
「ああ。今出してあげる。」
融が動き出す。
樹が立ち上がって「私、ちょっとトイレに」
そう言ってふらふらとトイレに行く。
じっと自分の顔を眺める。
どこかで見たなと思う。この酷い顔。
ああ・・新幹線の中だった。
水道水をコップに汲むと頭痛薬を飲んでごくごくと水を飲んだ。口を拭う。
キッチンの椅子にすとんと座ると融を見て言った。
「・・・融君。今日はもう帰るね。まだ荷物があるから、また回収に来ます。それで今日の話の続きはまたその時でいいよね。私、もう一度よく考えて来るから」
「帰るの?」
「うん。叩いて御免ね」
「それで来週は友達の結婚式があって・・。7月の最初の週はどうですか?」
樹は聞いた。
「ああ・・。その週は、俺は静岡に出張で。俺は8月から静岡の大学に出向になるんだ。向こうの研究室と合同で薬剤の研究をするから・・。行ったきりでは無くて行ったり来たりなんだけれどね。じゃあ、その結婚式の後にでも返事を聞かせてくれるかい?二か月が過ぎてしまうから・・・。もし、君が迷っている様なら・・・俺は佐伯に連絡してあと一か月伸ばしてくれるように言う積りだ」
融は言った。
そして首を傾げた。
「しかし、何でこんなに佐伯の言う事に縛られているのだろう・・・?どう考えたっておかしいよな。それ。俺は納得がいかないんだけれど。まるで俺が悪いみたいに・・・でも、なんか、あいつ、こうと決めたら絶対にそれを実行しそうな気がする。俺の言葉なんて鼻で笑って、『そう言ったじゃないですか?ちゃんと聞いていましたか?』とか言いそう。・・・あいつ、二か月を過ぎたら一日も待たないって言った。・・・そもそも何で二か月なの?」
「ムカつくなあ・・・何なの。まるで神じゃん」
融は言った。
樹は、はははと笑った。
融はその顔を眺める。
「?」
「何?」
「いや、今、普通に笑ったなって。・・久しぶりに君の笑顔を見たと思って・・・・ずっと泣き顔ばかりを見ていた様に思えて・・・」
融は言った。
樹はひとつ咳払いをすると真面目な顔で言った。
「融君。2か月じゃなくて3か月だよ」
「えっ?」
「3か月?2か月じゃなくて?」
融は驚いた。
「うん。3か月。最初は2か月って言っていたけれど3か月にしてもらったの」
「君が頼んだの?」
「そう。2か月じゃ答えが出ないと思って」
融は暫く考える。
「そっか・・・。ほっとした。じゃあ、頼むのを止めた」
樹は言った。
「それじゃ、帰るね。また連絡するね」
「分かった。・・・待って。送って行くから」
融は立ち上がる。
「大丈夫。一人で帰る。一人で帰りたいんだ」
樹はそう言った。
「融君。ケーキ、有難う。タッパーに入れて帰るね。保冷材もください」
そう言うと冷蔵庫からケーキを取り出した。
融は玄関まで見送った。
樹は芯が消えた人形みたいにふにゃりと座っている。
感情が爆発して暴れたからぐったりと疲れてしまった。頭は真っ白で何も残っていない。体はぴくりとも動かない。
キャパも無いが体力も無い。
「・・・融君。・・ねえ。すごく泣いたから頭が痛いの。ガンガンする。・・頭痛薬はあるかしら?」
「ああ。今出してあげる。」
融が動き出す。
樹が立ち上がって「私、ちょっとトイレに」
そう言ってふらふらとトイレに行く。
じっと自分の顔を眺める。
どこかで見たなと思う。この酷い顔。
ああ・・新幹線の中だった。
水道水をコップに汲むと頭痛薬を飲んでごくごくと水を飲んだ。口を拭う。
キッチンの椅子にすとんと座ると融を見て言った。
「・・・融君。今日はもう帰るね。まだ荷物があるから、また回収に来ます。それで今日の話の続きはまたその時でいいよね。私、もう一度よく考えて来るから」
「帰るの?」
「うん。叩いて御免ね」
「それで来週は友達の結婚式があって・・。7月の最初の週はどうですか?」
樹は聞いた。
「ああ・・。その週は、俺は静岡に出張で。俺は8月から静岡の大学に出向になるんだ。向こうの研究室と合同で薬剤の研究をするから・・。行ったきりでは無くて行ったり来たりなんだけれどね。じゃあ、その結婚式の後にでも返事を聞かせてくれるかい?二か月が過ぎてしまうから・・・。もし、君が迷っている様なら・・・俺は佐伯に連絡してあと一か月伸ばしてくれるように言う積りだ」
融は言った。
そして首を傾げた。
「しかし、何でこんなに佐伯の言う事に縛られているのだろう・・・?どう考えたっておかしいよな。それ。俺は納得がいかないんだけれど。まるで俺が悪いみたいに・・・でも、なんか、あいつ、こうと決めたら絶対にそれを実行しそうな気がする。俺の言葉なんて鼻で笑って、『そう言ったじゃないですか?ちゃんと聞いていましたか?』とか言いそう。・・・あいつ、二か月を過ぎたら一日も待たないって言った。・・・そもそも何で二か月なの?」
「ムカつくなあ・・・何なの。まるで神じゃん」
融は言った。
樹は、はははと笑った。
融はその顔を眺める。
「?」
「何?」
「いや、今、普通に笑ったなって。・・久しぶりに君の笑顔を見たと思って・・・・ずっと泣き顔ばかりを見ていた様に思えて・・・」
融は言った。
樹はひとつ咳払いをすると真面目な顔で言った。
「融君。2か月じゃなくて3か月だよ」
「えっ?」
「3か月?2か月じゃなくて?」
融は驚いた。
「うん。3か月。最初は2か月って言っていたけれど3か月にしてもらったの」
「君が頼んだの?」
「そう。2か月じゃ答えが出ないと思って」
融は暫く考える。
「そっか・・・。ほっとした。じゃあ、頼むのを止めた」
樹は言った。
「それじゃ、帰るね。また連絡するね」
「分かった。・・・待って。送って行くから」
融は立ち上がる。
「大丈夫。一人で帰る。一人で帰りたいんだ」
樹はそう言った。
「融君。ケーキ、有難う。タッパーに入れて帰るね。保冷材もください」
そう言うと冷蔵庫からケーキを取り出した。
融は玄関まで見送った。