第4話 かぎろい

文字数 766文字

龍影(りゅうえい)、わたしも連れてってよ!」

 猿飛佐助(さるとび さすけ)に化けて龍影たちを翻弄した人物、その正体は同じ戸隠(とがくし)の里の忍び・かぎろいだった。

 年の頃はちょうど、龍影にとっては妹分、百鬼丸(ひゃっきまる)幻王丸(げんおうまる)にとっては姉貴分といったところだ。

「かぎろい、とうに逃げおおせたものだとばかり思っていたぞ」

 着物の汚れをほろう彼女に、龍影は問いかける。

「あはっ、山へ薬草を取りに入ってたのさ。で、気がついたら村が燃えてるでしょ? ああ、きれいだなあと思って、しばらくながめてたんだよ」

 かぎろいはのんきな顔で答えた。

「ふん、お前らしいな、かぎろい」

「ねえ、龍影、わたしも一緒に連れてってばあ! どうせもう、帰るところもないんだしさ」

 彼女は龍影にしがみついて、足をバタバタとさせた。

「ならぬ。おなごなどいては、足手まといになるだけだ」

「そこを曲げて! わたしの人に化ける忍法、きっと役に立つって!」

 かぎろいがスッと顔をさすると、百鬼丸のそれへと変化しているではないか。

「あ、あねさん! その術はご勘弁ですよ!」

 自分の顔を自分で見ているのが不気味で、百鬼丸はあたふたした。

「ふむ……」

 龍影は少し考えた。

 確かにこの力、使えるかもしれない。

「……もし足手まといとなれば、すぐさま死んでもらう。それが条件だ」

 かぎろいはニヤリとほほ笑んだ。

「決まりだね。わたしだって忍びのはしくれ、それくらいの覚悟はできてるさ」

 龍影はきびすを返し、歩きだす。

「あねさん、なんでもいいから、早くその顔をもとに戻してくださいな」

「いいじゃないかヒャク。こういう趣向も悪くはないぞ?」

「からかうなよ、ゲン」

 こんなふうにして、かぎろいはうまいこと、一行の仲間へ加わることになった。

「へへっ」

 歩いていく四人を、木陰に隠れたひとりの少年が見つめていた。

 そしてそっと、彼らのあとをつけていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み