第1話 百鬼丸と幻王丸

文字数 629文字

龍影(りゅうえい)っ、貴様あああああっ……!」

 そう叫んだ男の首は、次の瞬間に吹き飛んだ。

 「その場所」には代わりに、ひとりの忍びの拳が止まっている。

 ここは信濃の国、戸隠の里。

 忍びの村が火炎を吐き出している。

「火を消せえいっ!」

「女や子どもだけでも助けろおっ!」

 絶叫は次から次に、火の海の中へと沈んでいく。

「燃えろ、燃えろ~! どうだ、俺の発明した龍砲(りゅうほう)の威力は~っ!?」

「やめろ、百鬼丸(ひゃっきまる)! やめてくれえっ!」

 黒い大筒(おおづつ)から噴き出る炎は、逃げる者でも女だろうが子どもだろうが、あますところなく消し炭に変えていく。

 淡い黄色の髪の青年は、丸眼鏡から狂気的な笑みを浮かべ、ふところの「飛び道具」を動かしている。

「貴様、百鬼丸! よくもこんな裏切りを! 皆の者、やつを止めろ! 殺してもかまわん!」

「は~ん?」

 百鬼丸がニヤリと笑うと、

「ぐえっ!」

「ぎゃっ!」

「あぎぃっ!」

襲いかかった忍びたちは、手にした刀でお互いを切り刻みあった。

「なっ、幻王丸(げんおうまる)、貴様までっ……!」

 浅黒い肌の青年が、鳴らした指をカリカリとさすっている。

「大兄貴、俺らは龍影(りゅうえい)の兄貴についていくことにした。じゃあな」

「うぐおっ!?」

 幻王丸がもう一度指を弾くと、相手の男の体は粉々に()ぜた。

「おのれ、龍影……」

 二人は合図をして、里の中心へと飛んだ。

「百鬼丸、龍影の兄貴はいまごろ――」

「ああ、幻王丸。お(かしら)の首をぐしゃぐしゃにしてるところだろうよ」

 笑い合う二つの影は、燃え盛る本陣の中へと消えていった。
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