第7話・怒った勇者、泣いた魔王

文字数 1,028文字

「もう許して下さい……」
 悪逆非道・残虐無情のはずの魔王が、身体はボロボロ・血にもまみれたデカい図体を縮こませて土下座をしていた。
 その目の前には、勇者。つい先程まで行なっていた魔王との激戦のせいか、魔王と同じくこちらも身体のあちこちがボロボロだった――が、こちらはドッシリと仁王立ちしており、見ていて疲れを感じさせない様子だった。
 そんな勇者が、口の中に溜まった血を地面に向けてペッ、と吐いた。
 
「『許して』って? は? ナメてんの? お前、こっちに今まで何してくれたん?」
 勇者は、魔王の頭を思い切り踏みつけた。
「村、町、城、祠。テメェんとこの輩がグチャメチャにしてくれたウチんトコ、どう落とし前つけてくれるワケ?」
「…………しゅ、修理費は出します」
 頭を踏みつけられた魔王が、下を向いたままあえぐ。
「金出す……だけぇ?」勇者が大仰に声を出す。

「金出すだけじゃなくて、手伝うのが筋じゃねぇの? ガーゴイルなんかの飛行部隊やオークとかの脳筋部隊を貸せや、コラ。資材運ぶくらいのことは出来るだろ?」
「は、はい……」
「っつうか、修理費どんだけかかると思ってんのバカなの? てめぇら側がくれた被害は『オカネダスヨー』でホイホイ気安く払える額だと思ってんの?」
 勇者がイライラと、まくしたてる。勇者の仲間の1人である魔法使いが後ろで「お腹すいたから帰ろうよ」とボヤいている。

「修理費だけじゃない。医療費、避難している人達の食費、とにかく物資いろいろ……。何もかんも全て手伝え、差し出せ。それが『謝罪』ってもんじゃねぇの?」
 ネチネチと一方的に責められ、頭を垂れたままだった魔王が険しい表情で頭を上げた。

「いいかげんにしろよ?! 元々の敗者に、なんでそんなにサービスせなアカンのだ! 確かに私は負けたかもしれないが【勇者】であるお前に負けただけであって【人間共】には負けてな……痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
 勇者は魔王の長い耳を、思っクソ引っ張った。

「……何、ヘリクツこねてんだ。うっせーな殺すぞ」

 瞳孔が開き、殺気立った勇者の目を見た魔王は再び、顔をクシャクシャにして「ごめんなさいごめんなさい……」と、ポロポロ泣き出した。
 
「バカめ……。金融屋の1人息子である勇者様にたてつこうなどと、か、かんたはらいひゃいわ……」
 後ろの魔法使いが、懐から出したメロンパンをもちゃもちゃほふりながらドヤ顔した。

 ところで、メロンパンって食べるとめちゃくちゃカス落ちるよね。
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