大きいお友達にヒーローの救いの手を!
文字数 966文字
池乃は今から十四年前、仕事が深夜までおよぶいわゆるブラック企業に勤めていました。
それまで池乃は、一部の友人を除いて、周りの人には仮面ライダーファンであることを秘密にしていました。
しかしある日たまたま同僚に、「今年からはじまる新ライダーはバイクではなく電車に乗って戦うらしい」ということを話してしまいました。
もちろんそれは仮面ライダー電王のことで、放送開始前に子供向け雑誌「テレビマガジン」のプレ情報で知った内容でした。
同僚は「今どきのライダーはそんな風なのか、それライダーとちゃうやん!」と大層驚き、会社の他の連中に面白がって話して回りました。
その結果、一部の社員間で交わされる話題がほぼ仮面ライダー電王の話となってしまいました。
その会社は仕事量が多く、休日出勤も当たり前に行われていました。
電王放送開始以前は、日曜日は平日の仕事の遅れを取り戻すために吐きそうになりながら出勤する日でした。
しかし電王が始まってからの日曜日は、朝に観た電王の興奮が冷めないまま出勤し、同僚とその日活躍したイマジン(主人公に憑依する怪人たち)のことだとか、どのように伏線が回収されただとかを話ながら仕事をする日となりました。
電王は、疲弊しきったおっさん達に夢と希望を与えてくれる、文字通りヒーローでした。
ある日残業を終えた数人で談笑していると、一人がどや顔で「いいものを見せてやる」と言ってデスクの引き出しを開けました。
そこには、なんとデンライナー(電王が搭乗する電車型マシン)の玩具が入っていました。
彼は未開封の車両の箱を開けようとしましたが、部長がそれを制止してこう言いました。
「まずはデンライナーの全車両を集めるべきではないのか?箱を開けて遊ぶのはそれからでも遅くはあるまい」
それから数か月かけ、数人で手分けして数種類あるデンライナーを買いそろえました。
来たるべき日に備え、それぞれがデスクにその箱を忍ばせていました。
万一、社長に見つかれば激おこぷんぷん丸です。
ハイリスクなミッションでした。
しかし時は満ち、ある日の深夜、事務所で数人のおっさんがデンライナーで遊び倒しました。
列車を滑走させ、ミサイルを飛ばし、奇声を上げてはしゃいだあの時間は、ブラック企業の激務の日々の中で、今も鮮明に輝いている記憶です。
それは池乃、33歳の寒い日のことでした。
それまで池乃は、一部の友人を除いて、周りの人には仮面ライダーファンであることを秘密にしていました。
しかしある日たまたま同僚に、「今年からはじまる新ライダーはバイクではなく電車に乗って戦うらしい」ということを話してしまいました。
もちろんそれは仮面ライダー電王のことで、放送開始前に子供向け雑誌「テレビマガジン」のプレ情報で知った内容でした。
同僚は「今どきのライダーはそんな風なのか、それライダーとちゃうやん!」と大層驚き、会社の他の連中に面白がって話して回りました。
その結果、一部の社員間で交わされる話題がほぼ仮面ライダー電王の話となってしまいました。
その会社は仕事量が多く、休日出勤も当たり前に行われていました。
電王放送開始以前は、日曜日は平日の仕事の遅れを取り戻すために吐きそうになりながら出勤する日でした。
しかし電王が始まってからの日曜日は、朝に観た電王の興奮が冷めないまま出勤し、同僚とその日活躍したイマジン(主人公に憑依する怪人たち)のことだとか、どのように伏線が回収されただとかを話ながら仕事をする日となりました。
電王は、疲弊しきったおっさん達に夢と希望を与えてくれる、文字通りヒーローでした。
ある日残業を終えた数人で談笑していると、一人がどや顔で「いいものを見せてやる」と言ってデスクの引き出しを開けました。
そこには、なんとデンライナー(電王が搭乗する電車型マシン)の玩具が入っていました。
彼は未開封の車両の箱を開けようとしましたが、部長がそれを制止してこう言いました。
「まずはデンライナーの全車両を集めるべきではないのか?箱を開けて遊ぶのはそれからでも遅くはあるまい」
それから数か月かけ、数人で手分けして数種類あるデンライナーを買いそろえました。
来たるべき日に備え、それぞれがデスクにその箱を忍ばせていました。
万一、社長に見つかれば激おこぷんぷん丸です。
ハイリスクなミッションでした。
しかし時は満ち、ある日の深夜、事務所で数人のおっさんがデンライナーで遊び倒しました。
列車を滑走させ、ミサイルを飛ばし、奇声を上げてはしゃいだあの時間は、ブラック企業の激務の日々の中で、今も鮮明に輝いている記憶です。
それは池乃、33歳の寒い日のことでした。