第22話 甘)思い出の「呉竹最中」

文字数 1,073文字

 かつて北前船の寄港地であった私の地元には、船に乗って上方文化が入ってきていたそう。そのためか、上生菓子を扱う和菓子屋さんがけっこうあるんです。
 その中の、とある和菓子屋さん。江戸時代の創業で、地元では、何かしらのあいさつの手土産やちょっとしたお使い物として、「ここの菓子折りだったらまず大丈夫」、というくらい知名度と信頼のある、いわゆる老舗であります。個人的に、この和菓子屋さんの渾身の作が、「呉竹最中」(くれたけもなか)だと思うんです。

 その「呉竹最中」、見た目は普通の最中です。最大の魅力は、その中身の餡にあるんですね。
 
 まず、その餡の色に驚きますよ。普通の餡でも白餡でもなく、とっても深~い緑色なんです。例えるならばなんでしょう、ストレート青汁?(笑)もっと濃いかな?って感じです。
 それではお味のほうはというと、そもそも緑色ということは……抹茶風味?ずんだ風味?それともまんま青汁風味?そんなふうに思いませんか?いやいやそうではありません。なんとこの餡には、海藻が練りこんであるんです!口にするとほんのり海藻、つまりは「海の風味」が広がりまして、さらに優しい甘みと塩味でもって、独特の存在感を放ちます。ただ、むやみやたらに「磯臭くてしょっぱい」というわけでは、もちろんありませぬ!そこは絶妙なバランスでもって仕上げてありますのでご安心を(笑)作り手の創意工夫が感じられる逸品だと思います。

 子供の頃はそのあたりのことは何も知らず、考えず、ただ「美味しいから」、「家にあるから」ということで食べてました。大人になって、このお菓子にまつわるストーリーを知るにつれて、「わが港町にも銘菓あり」と、私ははっきりと自覚するようになりましたね。この町をかつて訪れた文人墨客も称賛した唯一無二の「呉竹最中」。いつでも食べられて、いつまでも当たり前に存在しているお菓子だと思っていました……
 
 実はこの「呉竹最中」を扱うお菓子屋さんは、残念ながら数年前に廃業してしまったんです。海藻を練りこんだ独特の風味と、深みのある濃い緑色の美しさが好きでした。廃業の情報に接したとき、かなりへこんだことを覚えています。ああ……もう食べられないのか……

 ところが奇跡が!最近になってこのお菓子屋さんが復活したんです!ご当主がどうしてもお店の歴史と味、そして製菓技術をこの町に残したいということで一大決心されたようで、さらに住民たちの後押しもあって、今回の運びになったそうな。いや~嬉しい!嬉しすぎる!!ありがとうございます!

 またあの「呉竹最中」が食べられる~♪

 
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