第17話 とても静かないい夜だ

文字数 1,194文字

ぐうぐう……、すやぁ……。
うーん、むにゃむにゃ……、ふふふ……。
………………。
止まれ。
……っ! な、なんですの!?
それはこっちのセリフだ、マルシャとやら。
こんな夜更けにいったいどうした。
一人じゃトイレにも行けないか?
いえその、
私はアーテルメラン様に毛布をかけてさしあげようと……
そりゃまた随分とがった毛布だな。
頚動脈ぐらいならスパッと切れそうだ。
これはっ……! このナイフはその、
さきほどまで調理場で後片付けをしておりましたの。
つくづく愚かだな人間は。
犯行現場を押さえられてなお、
まだ弁明の余地が残っていると本気で思っているのかね。
ちっ、全部お見通しですのね……。
いずれにせよこれはオワリアの問題。

そこの騎士一人がどうなろうが、
アナタには関係のないことですわ!
そいつは困る。そこで寝ているくっころ女騎士は、
私にとってこの世界における大事な橋頭堡だ。
それに腕の立つボディガードを失うのは惜しい。
そうですの……邪魔をすると仰るのね。
せっかく見逃してさしあげようと思っていましたのに。
すっ……
すすっ……
やれやれ、騎士アーテルメランが不憫だよ。
随分と喜んでいたからな。

君たちを、私がこの手にかけるのもしのびないというものだ。
ほざいてなさいな!
まずはアンタからあの世へ送って差し上げ、
ドッ……!
ま……す……、わ……。

……あ、あれ……?
ドチャア……ッ
……………………。
ひぃっ! ア、アーテルメラン様!
いつの間に起きて……
違うんですこれは! これはその!
ドッ! ガッ! ズバッ! ザシュッ!

グチャ、 ニチュ、 ゴリュ、
………………………………。
あ、あが……、アーテル、メラン……!
マルシャ……すまない……。
……今更、領主ヅラなんかしやがって……!
アンタが負けてから……私たちが……どれ……だ……け……
許してくれ、とは言わん。
少し休め、マルシャ。
パパも、ママも、アンタのせいで……!
許すもんか……絶対に……、……。


……。
……………………………………。
むにゃむにゃ、……はっ!
なんすかコリャ!? あたり一面血の海っす!
おはよう、よくこの喧騒の中で眠れるものだ。
…………すまない、すぐに片付ける。
そうだな、犬のフンは飼い主がちゃんと始末しないとな。
それで、飼い犬に手を噛まれた気分はどうだね。
少し一人にさせてほしい。
残念ながら、汝の願いは聞き届けられませんでした。
私は悪い神様なのだ。
そういや君は神様(自称)だったな……。
ならば背を向けていてくれないか。

あと耳も塞いでいてくれると嬉しい。
神は祈るものであって、願うものではないぞ。
致し方あるまい。10分で済ませたまえ。
かたじけない。
ほらピピル、君もこっちに来て耳を塞ぐのだ。
とっくにスタンバイOKっす。
…………………………うっ、ふぐ……

……うう……。
見たまえピピル、今夜は月が綺麗だ。
なんすか?
何言ってるかぜんぜん聞こえないっす。
   
とても静かないい夜だ。
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登場人物紹介

怠惰の神ネヴェス
その肩書きがしめすとおり筋金入りのなまけもの。
好きな言葉は「他力本願」

天使ピピル
ネヴェスの身の回りの世話をする天使。
テキトーな性格だがちゃっかりしている。

騎士アーテルメラン
没落した貴族だが、かつては高名な騎士だった。
真面目すぎる性格のせいで貧乏くじを引きがち。
バイト中に傘下へと加わったため常にメイド服を着用している。

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