あとがき

文字数 656文字

すっかり蝉の鳴き声も小さくなって、生き絶えた蝉の死骸を道端で見ることが増えた。

日の光が未だに鋭いものの、吹き抜ける風が少し涼しくなった九月上旬。
僕は家を出て、通勤の為に近くの駅へ向かっていた。
呼んでもいないのに上った朝日の光を浴びながら、人数の少ない住宅街の道を歩いていく。
今日も仕事、面倒くさいな。
そう思いながら、軽くあくびをする。
今でも仕事内容は肉体労働とデスクワークの掛け持ちで大変だし、残業もしているよ。
社内評価とか年内目標とか、そんなものにも追われるようになった。
そういうところを考えると、僕は仕事や社会に縛られているのかもしれない。
でも同僚の人達は本当に優しいし、楽しく過ごさせてもらっている。
だから、もう少しは頑張ってみようと思ってるよ。
そう思いながら道を歩いていると、ふと蝉の死骸が道端に落ちているのに気づいた。
もう九月に入っているし、蝉の死骸も最近はよく見かける。
今年の夏も終わるんだなと実感すると同時に、夏をなんだか惜しく感じる。
リュウジと過ごした季節が過ぎていくことを思うと、寂しく感じてしまう。
リュウジ。
彼は僕にとって、末期の腫瘍だよ。
手の施しようがないほど、僕の中で大きな存在として居続けている。
お前のいない世界だと、何をして生きていこうか迷ってばかりだ。
でもきっと、それも悪くない生き方なのかもしれない。
たとえ迷っていても、あの頃のリュウジや僕みたいに、自分の思う通りに生きればいいだけのことだ。
とにかくまだ、僕は生きて歩き続けるよ。
リュウジと約束した夢を、叶えている途中なのだから。
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