第8話

文字数 1,210文字

 病院の集中治療室の前に辿り着いくと意外な人物がいた。上野部長だ(正確には元部長だが)。
「ぶ、部長!?なぜここに?」
「なぜって、娘が急に倒れたと聞いたからだよ。お前こそなんでここにいるんだ?まさかおふくろさんに何かあったのか?」
 俺は病院に駆け付けた経緯を話した。部長と話をして部長と十薫さんが親子であることを知った。確かにどちらも姓は”上野”だからまさかな、とは思っていたが。ついでに、部長が俺の母と面識があるのは十薫さんと病室が一緒だったからだ。
「まさか寺嶋が十薫と知り合いだったとはな。いや、お前のおふくろさんと同じ病室だからおかしな話でもないか。なんにせよ、娘の心配をしてくれてありがとな。」
「何でだよ…」
「ん?どうかしたか寺嶋?」
「なんで病気の娘がいるのに仕事を辞めたんだよ!!
 病気の娘を抱えながら部下を庇って会社を辞めるとか本当に何考えてんだよあんたは!!
「何でって、俺の私情で部下たちの仕事を辞めさせる訳には…」
「使えない部下何人かのクビなんかより娘の病気の治療を優先しろよ!!だいたい会社としては俺らのクビを切る予定だったからあんたが責任を感じる必要は微塵もないんだよ!!
 そうだ、本来会社をクビになるべきだったのは俺の方だったんだ!!あんたには十薫さんを支える義務があるだろ!!だったら俺みたいな屑のことなんか気にせず会社に残れば良かったんだよ!!
「いやしかし…」
「いやしかしじゃねえよ!!だいたいあんた変なところでお人好しすぎ…」
「君、病院内ではもう少し静かにせんかね。」
 集中治療室から出てきた年配の医者に注意されてふと我に返った。
「す、すみません…部長、先程はとんだ失礼を…」
「いや、お前の言うことにも一理ある。それで先生、娘の容態は…娘は助かるんですよね?」
「何とか一命は取り留めました。しかし病状は悪化してますな。またいつ発作が起きるか…最悪の場合も覚悟しておいてください。」
「先生、娘は…娘は助からないのですか!?
「実は最近アメリカで娘さんと同じ病気の治療に成功したとの報告があります。しかも手術後患者は健康な人と同じように日常生活を送れるまでに回復していていると。ただしいかんせん金額が…」
「い、いくら用意できれば良いのですか?」
「そうですな、日本円にして3億は必要かと…」
 そう聞いた部長はがっかりしたように呟いた。
「3億かあ…」
 3億円か、そりゃ一般人に用意できる金額じゃないよな…ん?待てよ?3億!?…あるじゃないか!!
「先生!!3億円あれば十薫さんの病気を治すことができるのですか!?
「まあおそらくそれぐらいあれば足りるとは思うが…」
「そういうことなら部長、後でお話があります。僕のアパートに来てください。」
「それは良いが寺嶋、まさか宝くじにでも当たったのか?」
「そんなとこです。ここでは話しづらいのでとにかくきてください。」
 俺たちは早急に病院を出てアパートに急いだ。
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