水底に射す希望

文字数 1,420文字

そんな……、ホールデンのもこもこした体が、粒子状に蒸発しながら消え始める。
やだ、消えないでホールデン……。
私を置いていかないで!
私を独りにしないで!
ふふ、消えるものか……。
キミを、こんな寂しいとこで独りにしやしない。
ボクはキミのバディだよ?
いつまでも……ボクとキミは一緒さ……。
ああっ!
でも、でもホールデンの消失は止まらない。
私のせいで。
私の弱さのせいでこんなことに……。
キミは弱くなんかないさ。
ボクは知っているよ。
キミは誰よりも強い。
本当に弱い奴は自分の中の影に食われちまうものさ。
だけどキミは踏みとどまっている。
自分の中のもう一人の自分と戦い、内に押し込めている。
それに、それに……。
ホールデン、私は強くなんかないよ!
結局あなたを消してしまうことになった……。
私は自分に、自分の中の衝動に勝てなかった……!
それにね。
キミはどうしようもなく優しい。
キミのおかげでボクはどんなに救われたことか。
ボクには愛情を注いでくれる人は過去には居なかったんだ。
でもキミは、ホールデンというぬいぐるみの偽物であるボクをも愛してくれた。
違う……、違うのホールデン。
私は愛されたいから、あなたに愛情を向けたの。
すべては自分のため。
自己の飢えを満たすため……。
……それでいいんだよ。
それが人間なんだから。
キミがどんな殺意を抱えてたって、人間に間違いないんだ。
本当のバケモノは、ボクたち大人だ……。
ボクたち組織の……、ぐっ……!
ホールデン!
いいかい、キミは自分の弱さを認めている。
それだけでとてつもなく強いことなんだよ。
その強さがあるから優しさも生まれる……。
キミを人間として成り立たせているんだ。
だから……、だから、また笑顔を見せて欲しいな。
キミの希望でボクの深淵に光を……。
ホールデン。
私はうっすらとしか形を保っていないホールデンをそっと抱きしめた。
そこにはもこもことした実体はもうない。
でも、ホールデンのぬくもりは感じることが出来た……。
ホールデン、私だけじゃないよ。
あなたも私に希望の光を与えてくれた。
だから、消させやしない。
私が希望になるのなら、きっと奇跡だって起こしてみせる。
ふふ、やっぱりキミは強いなぁ。
まぶしいよ。
キミが差し込んでくれる光はとてもまぶしい……。
ホールデン……、私の大切なバディ……。
これからも……。
一緒に居よ!
ドンッ!
!?
これは……、門が、地獄の門が開き始めた……。
そうか、深淵が、プレシャスが、深きものが、この子を受け入れたんだ。
やはりキミの希望を見つめる眼差しこそ、プレシャスに導く鍵だったんだ。
行こう!
ホールデン!
私たちの光を、希望を、水底まで届けよう!
ち、力が戻って来る……。
分解していた構造体が再構築し始めた。
本当に奇跡が起こった……、いやこの子が起こしてみせた!
…………。
……行こう。
ボクのバディ。
キミの輝きで暗き淵を照らすために!
うん!
私はあなたが行くならどこにでも向かうよ!
私とあなたは最高の……、ううん、最強無敵のバディなんだから!
未来への門は開かれた!
キミならきっと、プレシャスを見つけられるはずだ。
そして世界を、未来を守るんだ!
行っくよー♪
私とホールデンは、地獄の門をくぐり抜けて、さらなる深みへと身を沈めていった。
その結果、より間近に自分の正体と向き合うことになるかもしれない。
だけど、もう目をそむけない。
自分を否定しない。
ホールデンが差し伸べてくれた愛情で乗り越えてみせる!
To be continued
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登場人物紹介

深層意識の水底を目指して潜り続ける主人公
未殺人囚No.808

バディ

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