水底へ
文字数 1,964文字
抗うことも出来たかもしれない。
それでも私は、水の中の自由落下を楽しんでいた。
うん? ……水の中?
あれ……、私はどうして水の中を沈んでいるのだろう。
しかも息苦しいとも思わない。
むしろ深く深く沈んでゆくたびに胸の中が軽くなるようだ。
それでも私は、水の中の自由落下を楽しんでいた。
うん? ……水の中?
あれ……、私はどうして水の中を沈んでいるのだろう。
しかも息苦しいとも思わない。
むしろ深く深く沈んでゆくたびに胸の中が軽くなるようだ。
しっかりしろ!
まだ深層の浅い段階から記憶を混濁させてどうするんだ!
まだ深層の浅い段階から記憶を混濁させてどうするんだ!
ジリリリリリリリリリリッ!!
私の中に静けさが降り立った。
冷たい感情が研ぎ澄まされ、一振りの短剣として手の内に現出する。
深きもの――ワタシは、人魚のようなしなやかさで水中を駆け上がり、大あごを開いて襲いかかって来た。
私は身を捻って牙をかわすと、その脇腹に短刀を突き立てる。
が、ワタシは何事もなかったように軌道を変えて再び襲いかかって来た。
冷たい感情が研ぎ澄まされ、一振りの短剣として手の内に現出する。
深きもの――ワタシは、人魚のようなしなやかさで水中を駆け上がり、大あごを開いて襲いかかって来た。
私は身を捻って牙をかわすと、その脇腹に短刀を突き立てる。
が、ワタシは何事もなかったように軌道を変えて再び襲いかかって来た。
それを聞き、私の中の冷徹な部分が肥大するのを感じた。
もっと、もっと殺意を敵意を研ぎ澄ませるんだ。
私の意志に呼応して、短剣の刀身がぐにゃりと波立った。
ワタシの爪が、紙一重でかわした頬をかすめる。
私はそのままワタシの背中を追うように反転し、刃先を向けた。
すると刀身が蛇のように伸び、ワタシの背中を貫く。
だけどまだ手は止めない。
もがくワタシを伸びた刀身ごと振り回し、水底目がけて投げ落とした。
目を細め、下降してゆくワタシに照準を合わせる。
そして刀身が脆いガラスのようにひび割れた短剣を振り上げると、ワタシの方に振り下ろす。
その無数の金属片は水中を走り、ワタシの体を散り散りに切り裂いたのだった。
もっと、もっと殺意を敵意を研ぎ澄ませるんだ。
私の意志に呼応して、短剣の刀身がぐにゃりと波立った。
ワタシの爪が、紙一重でかわした頬をかすめる。
私はそのままワタシの背中を追うように反転し、刃先を向けた。
すると刀身が蛇のように伸び、ワタシの背中を貫く。
だけどまだ手は止めない。
もがくワタシを伸びた刀身ごと振り回し、水底目がけて投げ落とした。
目を細め、下降してゆくワタシに照準を合わせる。
そして刀身が脆いガラスのようにひび割れた短剣を振り上げると、ワタシの方に振り下ろす。
その無数の金属片は水中を走り、ワタシの体を散り散りに切り裂いたのだった。
未殺人囚No.808!
良くやったな。
これで君の中から殺人衝動の一部が取り除かれたぞ。
良くやったな。
これで君の中から殺人衝動の一部が取り除かれたぞ。
そう、私は人格検査で殺人衝動の異常値を叩き出し、施設に収容された。
そこで自分の中の殺人衝動と立ち向かう術を教えられ、その実践を今おこなったのだ。
施設では私以外にも多くの人が収容されている。
皆、殺人者予備軍である。
すべてはその私たちに殺人を起こさせないため。
社会の安寧を保つために……。
そこで自分の中の殺人衝動と立ち向かう術を教えられ、その実践を今おこなったのだ。
施設では私以外にも多くの人が収容されている。
皆、殺人者予備軍である。
すべてはその私たちに殺人を起こさせないため。
社会の安寧を保つために……。
初めて自分の深層意識へのダイブを終えた私は、疲れた体を引きづり、自室へと戻った。
収容されているとは言え、人権的に守られているから環境はひどくない。
だから外部から好きなものを持ち込めるけど、私はたったひとつしか手にしなかった。
扉が自動で開くと、自室の隅のベッドの枕元でクマのぬいぐるみが出迎えてくれる。
収容されているとは言え、人権的に守られているから環境はひどくない。
だから外部から好きなものを持ち込めるけど、私はたったひとつしか手にしなかった。
扉が自動で開くと、自室の隅のベッドの枕元でクマのぬいぐるみが出迎えてくれる。
To be continued