三の色 食べること

文字数 651文字

 食べることは、好きだ。
 そうして「美味しいものを美味しいと思える幸せ」があるということも、ちゃんと知っているつもりである。
 例えば、ふかふかのシフォンケーキ。
 焼いたおみその、香ばしい湯気の立つおみそ汁。
 ターメリックで黄色く色づいた、オニオンライスを底に敷いたあつあつドリア。
 全く料理の出来なかった昔と違い、そこそこ色々作れるようになった今では、自分でこさえた美味しいものも食べられる。
 がっくり物を食べられなくなった過去もある。だからこそ、美味しいものを美味しいと思えることがありがたい。
 本当にうつは怖い。
 前述の通り、まともに料理も出来ないままで一人暮らしを始めたことも悪かったのか。大学生活二年のはじめ、風邪がもとでほとんど食べられなくなった。
 かろうじてのどを通るのは、白菜と豚肉をくたくたに煮てミキサーでどろどろにした流動食。実家の母に助けを求めていっぺんこちらに来てもらった。母は「風邪の重いの」だと判断し、苺を置いて帰って行った。
 その苺もミキサーにかけて、赤いどろどろにして飲んだ。
 結局どうにも一人では生きてゆけなくなり、母に迎えに来てもらい、五月に厚いコートを着込んでがたがた震えて実家に戻った。
 それから、ずっと実家で生きている。
 今のままがずっと続くとは思わない。続けて良いとも思っていない。
 ただ、美味しいものを美味しいと思えることに感謝して。祈るような想いで、文章を紡いで生きている。
 今日の夕食の水炊きも、家族四人で囲んで食べた。
 大丈夫。ちゃんと、美味しかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み