文字数 385文字

 青空いっぱいに無数の白くてまるい、大きな気球や円筒形の飛行物体があらわれた日。
 地球から死が消えた。

 ぼくは眠れなくなった。
 でも起きていなければならない肝心な時間には、ぼくは眠ってしまっている。猫を目覚まし時計がわりにして、チョコレートを猫の口にはさんだ。
 よく音の出るチョコレートで、ぼくが起きなくてはならない時間に眠りこんでいたとしても、猫がそれをぼりぼりと噛んで起こしてくれるはずだった。
 少なくとも猫とぼくとの間ではそのような協約が成立していた。
 ぼくを起こしてくれるかわりに、猫はおいしいチョコレートを食べられる。

 しかしぼくはやはり、起きていなければならない時間には眠りにとけこんでいたらしい。
 肝心の時間をすぎて目が開いてみれば、猫は目覚まし時計に変身していて、時計のガラスのむこうにチョコレートの小さな欠片がひとつだけ。
 時計の針は動いていなかった。
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