3.過去

文字数 952文字

 今から数十年前のお話。まだ館長さんも若く、灰色コロニーではない故郷に住んでいた頃のことです。
 その故郷の名前は“地球”といい、それはそれは青く美しい惑星でした。大地は緑にあふれ、海は青く澄み渡っておりました。
 そころが、人々の暮らしが豊かになるに連れて、人が自然を大切にしなくなって行きました。便利な生活を送るために水と空気を汚し、木を切り倒しては他の動物たちの住む場所を奪っていきました。青く美しかった地球は次第に茶色く濁った大気の惑星になり、とうとう生物が住むには厳しい環境にまで追いやられました。
 人々はもはやどうにもならない地球を捨てて、宇宙に逃げることを選びました。それが、『移民化計画』だったのです。
 とはいえ、人が実際に長く宇宙に出てどんな影響があるのかよくわかっておらず、すぐに全員で出港というわけには行きません。そこでまず、先に出発してどんなものがあるか調べる調査隊が組まれました。館長さんはその募集に応募した青年の一人だったのです。
 調査隊として宇宙へ送り出された船は全部で十台。四方八方へと送り出された船を、人々は歓声と共に見送りました。そうして館長さんたちの船がたどり着いたのは衛星ほどもない小さな星でした。
 けれども不思議なことに、地球のように大気もあれば生物も存在していました。館長さんたちは喜んで、このことを故郷に伝えようとしました。
 ところが、何度呼びかけても通信はつながらず、砂嵐のようなノイズをきかせるだけで、一向に地球につながりません。館長さんたちは地球と連絡を取る手段がなくなってしまったのです。調査隊のみんなは途方にくれて、数日間は何もする気になれずにぼんやりと過ごしていきました。けれども、このままではいけないと心をを奮い立たせ、館長さんたちはその惑星で生きていく決心をしました。農耕から始まり、そこにあるものを使って色々なものを作り出して行きました。少なかった人口も増え、星が少し手狭になり館長さんたちは小さな惑星の表面を覆うように、少しずつ空へ向かって増築を始めました。人が多くなって困ったからと言って、お世話になった惑星を捨てることも、宇宙へ出ることも館長さんたちはしたくなかったのです。
 そうして出来たのが消えてしまった街でした。

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