第4話 夏美

文字数 636文字

 今月のくじ引きの結果。鵲聖也(かささぎせいや)の目の前の席。
 
 最高のくじ運だったと内心で狂喜する。
 夏美の一目惚れはまだ誰にも知られていない。だからいつも通りのポーカーフェイスを保つ。

 男性にしては可愛らしい顔立ちで華奢な体。本人は気にしているようだけれど、聖也は夏美の好みのタイプにどんぴしゃりなのだ。

 でも、鵲が自分のことをどう思っているかは、ちゃんと気づいているつもり。
 いつも余分なお節介ばかり焼いていることも、彼にはそれが迷惑なこともわかっている。

 今だって、ほら、嫌がられた……

 疑問や間違ったことを見つけると、黙っているのが苦手。 
 わからないことはとことん知りたくなるし、おかしいと思うとついつい言ってしまう。それでトラブルになることも多かったから、今は自重するようにしている。
 中学の友人関係は繊細で面倒くさいことは身をもってわかっているから。

 それに……正直わからなくなっていた。

 正義って何?
 倫理って何?
 思いやりって何?

 極めようとすると真逆の結果になる。

 子どもの頃は周りの大人が大きく見えた。
 でも、今は違う。
 大人の弱さも、ずるさも、社会の矛盾も、冷たさも見えてきた。 

 今までのように、能天気になんか生きられない。
 無条件に信じられた基盤のようなものが砕け散ってしまった。
 早く構築し直さなければと焦る。

 こんな状態で、周りを信じろ。自分を信じろなんて。絶対無理。
 
 だから、この恋も『まがい物』かもしれないのだ。
 そんな告白、言えるわけないじゃない。
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登場人物紹介

鵲聖也《かささぎせいや》

 両親の離婚により母方の故郷へ転校してきた。鵲の苗字にようやく慣れてきたところ。

 

大沢和成《おおさわかずなり》

 明るくてお調子者を演じているが、中身は繊細な男の子。

高橋夏美《たかはしなつみ》

 正義感の強い女の子。聖也のことが好きだけれど自分に自信がなくて告白できない。


稲生真紀《いなせまき》

 大人しくて目を合わせて会話をするのが苦手。聖也のことを密かに想っている。

設楽真《しだらまこと》 仇名 ダラセン

 担任の先生。いい加減な雰囲気だが、子どもたちのことをよく見ている。

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