昇らない お日さま (2) フェラディドン

文字数 775文字

「うーん。お月さまは、まだ天上にあるぞ。真夜中の証拠だよ。やっぱり、僕の時計が間違っているのかなぁ」

フェラディドンは、教会の扉を開けて中に入りました。彼は牧師様に信用されていて、教会の扉の鍵を預かっているのです。彼は燭台のロウソクに火を灯し、祭壇の横にある大きな時計にかざしました。

時計の針は、午前6時を指しています。フェラディドンの目覚し時計と一緒でした。彼は寝る前にいつもこの時計を見て、目覚まし時計の時刻をなおすのですから、当たり前と言えば当り前です。

これはいよいよ尋常な事じゃないぞ。フェラディドンは教会の鐘が取り付けられている建物の、一番高い所へ大急ぎで登りました。そして一声!

ウォ~ン!

彼は大きく一声吠えました。これが彼のもう一つの仕事なのです。何か大きな異変があった時、街のみんなにいち早くそれを知らせる役目です。犬のケモノ妖精である彼の魔法は、何十キロ先まで響き渡るその声なのでした。

フェラディドンの声に、街のみんなは一斉に注目しました。多くの人が眠りから叩き起こされ、声のする方を振り向きます。みんな、それが彼の声だとすぐにわかりました。フェラディドンが、如何にみんなに信頼されているかの証拠ですね。

やがて街の広場に、多くの人が集まり出しました。

そして口々に、

「なぜ、夜が明けないんだ!?」

と言いました。


さて、ここで舞台が変わります。とっても遠い所へ変わります。

ここはヴォルノースの北の森の更に北東、通称「影の森」と呼ばれる一角です。一角と言っても、面積はヴォルノースの北の森と南の森を合わせたくらいの広大な森です。

ただ、ここはとても恐ろしい森なのです。親の言う事を聞かない子供がいても「影の森に連れて行ってしまうわよ」と叱れば、すぐに言いつけを守るくらいにです。

なぜ、影の森が恐ろしいかですって? それにはこんなわけがあるのです。
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