魔法のマグカップ (3) うきうき、ママ

文字数 825文字

カップがきれいになったところで、ママはコーヒーをいれる準備を始めます。別に紅茶でもココアでも良いのですが、コーヒーが一番このマグカップの魔法の効果を引き出せると知っていたからでした。

ママは戸棚からコーヒーメーカーを取り出して、テーブルに置きました。

インスタントじゃだめよ。出来るだけ美味しいコーヒーをいれなくちゃ。せっかく魔法のマグカップで飲むのですから、ママの張り切りようにもうなずけます。

コーヒーメーカーのポコポコという音や、ドリップされていく琥珀色のしずくを眺めながら、ママの心は少しずつ高鳴っていきました。

ママは窓を少し開けて、春風を招き入れます。そして魔法のマグカップにコーヒーを注ぎ、昨日つくったクッキーを乗せた皿をその横に並べました。

さぁ、準備万端です。

ママは大きく息を吸って、それから吐きだしました。深呼吸です。ちょっと緊張しているのです。なぜ緊張しているのかですって? それは、すぐにわかります。

ママは、マグカップをそっと持ち上げました。良い香りが、ママの鼻をくすぐります。ママの目の前が、少しぼやけてきました。でも、それはコーヒーの湯気のせいではありません。

「さてと」

ママはカップの端に口をつけ、まず控えめに一口目を舌の上に乗せました。少しほろ苦い味が口の中に広がります。そしてママの目の前はいよいよぼやけてきて、今まで見えていた壁紙の模様やお気に入りのチェストは、もう見えなくなりました。

「あぁ、そうそう。そうだったわ」

ママが、懐かしそうにつぶやきます。

今、ママの目の前には草原が広がっていて、ママは大きな木の根元に座っているのです。着ている服も今とは全然違います。とてもハツラツとして、素敵なワンピースです。今はちょっと恥ずかしくて、もう着る事はありません。たぶん、サイズも合わないでしょう。

ふと視線を落とすと、そこには美味しそうな手作りのサンドイッチ。一緒に水筒もありました。中にはもちろん、美味しいコーヒーが入っています。
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