魔法のマグカップ (5) パパ、怒られる

文字数 756文字

ママが時計を見ると、まだお昼には少し時間があります。

「”お昼ごはんまだ?”じゃないでしょ。どうしたら、そんなに汚れるのよ。早くシャワーを浴びてきれいにしてらっしゃい。それまで、お昼ご飯はお預けです」

夢見がちな少女の思い出から、急に現実に引き戻されて、ママは少々ご機嫌斜めです。

ニールは、自分でも泥んこな事に気がとがめたのか、

「ママ、何をぼうーっとしていたの?」

と、話題をすり変えようとします。

「ん~、ちょっと素敵な男の人とね……」

そう言いかけて、ママは思わず口に手を当てました。子供にする話ではありません。まだ少し、夢と現実の境目があやふやなようです。

「ほらほら、いいからさっさとシャワーへ行く!」

ママは声をワントーン上げて、泥だらけの天使に命令します。ニールもこれ以上は誤魔化せないと思い、大人しく風呂場へと向かいました。

「ただいまぁ。あぁ、疲れた、疲れた。風呂、風呂!」

帰って来たパパが、ドアを開けるなり、そう言いました。少し見ただけでも汗だくなのが分かります(何故、汗だくなのかはまたのお話で)。

「おぉ、ニール。盛大に汚してきたなぁ。じゃぁ、パパと一緒に風呂に入るか」

パパは、ばったりと会った息子に声をかけました。大好きなパパとのお風呂を、ニールが断るはずがありません。二人は意気揚々と、風呂場へ向かいます。

そんな二人を見送りながら、

「パパ、物置のアレ、ちゃんとあとで片付けて下さいね。今日中にですよ。わかった?」

と、ママが有無を言わせぬ口調で言いました。覚えがあるパパとしては「ハイ、ハイ」とバツの悪そうな顔をして、ニールと風呂場に避難です。

パパとニ―ルがお風呂へ入っている間に、ママはこっそり物置へ戻り、洗ったマグカップを再び元に戻しました。ただ今度はちゃんと布にくるんで、ホコリがつかないようにして。
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