第74話 甲斐性
文字数 621文字
あれこれ悩んだところで仕方がない。魔を封じる者であろうとなかろうと、降りかかってくる火の粉は払うまでだ。
ふと気づけば、あたりはすっかり宵闇に包まれている。さっきまでは静かだったのに、海の方角から風も吹いている。
波頭を眺めていた隼人が藤音の方を向いた。
「そろそろ戻りましょう。風が出てきました。お体にさわるといけません」
「はい……」
宵闇の中、まだかすかに鬼封じの岩が見える。波音の中、奇妙な大岩の光景はなぜか藤音を惹きつけ、心をざわつかせる。
まるで誰かに呼ばれているかのような……。
返事はしたものの、魅入られたように藤音はなかなかその場を動けなかった。如月に手を引かれ、ようやく歩き出す。
藤音を辛抱強く待っていた隼人の隣まで連れていくと、如月は後ろに下がり、内心ため息をついた。
やれやれ、世話の焼ける……。
この殿は人柄はすこぶるよいのだが、どうも甲斐性に欠ける。
夜這いに来いとまでは言わないが、仮にも夫婦 なのだから、さっさと手ぐらいつないで歩き出せばよいのに。
待つだけでは、静かに見守るだけでは、だめなのだ。
相手を気づかいすぎて遠慮ばかりしていては、いつまでたっても先に進めない。
ええい、じれったい、もっとがっつりいかぬか!
地団駄踏んで、発破 をかけてやりたいくらいである。
ふと気づけば、あたりはすっかり宵闇に包まれている。さっきまでは静かだったのに、海の方角から風も吹いている。
波頭を眺めていた隼人が藤音の方を向いた。
「そろそろ戻りましょう。風が出てきました。お体にさわるといけません」
「はい……」
宵闇の中、まだかすかに鬼封じの岩が見える。波音の中、奇妙な大岩の光景はなぜか藤音を惹きつけ、心をざわつかせる。
まるで誰かに呼ばれているかのような……。
返事はしたものの、魅入られたように藤音はなかなかその場を動けなかった。如月に手を引かれ、ようやく歩き出す。
藤音を辛抱強く待っていた隼人の隣まで連れていくと、如月は後ろに下がり、内心ため息をついた。
やれやれ、世話の焼ける……。
この殿は人柄はすこぶるよいのだが、どうも甲斐性に欠ける。
夜這いに来いとまでは言わないが、仮にも
待つだけでは、静かに見守るだけでは、だめなのだ。
相手を気づかいすぎて遠慮ばかりしていては、いつまでたっても先に進めない。
ええい、じれったい、もっとがっつりいかぬか!
地団駄踏んで、