第118話 雨宿り
文字数 579文字
和臣に肩を抱かれるようにして、桜花は漁師小屋へ向かう。
建付けの悪い戸をきしませながら和臣が開け、二人は中へ入った。粗末な小屋だが、雨宿りくらいはできそうだ。
……寒い。
桜花は自分の腕を抱いて身震いした。雨に打たれたせいだろうか、夏だというのに身体がひどく冷たい。
和臣はそんな桜花を見て、懐から布を取り出した。
「どうぞ、これを使ってください」
自分も濡れているにもかかわらず、すっと桜花に白い布を差し出す。
一瞬ためらったが、桜花は素直に好意を受けることにした。
「ありがとうございます、和臣さま」
桜花のそんなもの言いに、和臣はふっと寂し気に笑った。
「わたしはいつも、和臣さま、なのですね。伊織は名だけを呼ぶのに」
突然に言われ、桜花は言葉に窮した。自分にとっては、今まで考えてみたこともないほど自然だったのに。
「えっと、伊織とわたしは同い年で、和臣さまは年上なのですから……」
「本当に、それだけですか」
まっすぐな視線を受け止めきれず、うつむいてしまう桜花に、和臣はまた寂し気に笑う。
「桜花どのは正直ですね。嘘がつけない。みんな顔に出てしまう」
「そ、そうでしょうか」
桜花は借りた布を握ったまま、赤くなって頬に手を当てる。
建付けの悪い戸をきしませながら和臣が開け、二人は中へ入った。粗末な小屋だが、雨宿りくらいはできそうだ。
……寒い。
桜花は自分の腕を抱いて身震いした。雨に打たれたせいだろうか、夏だというのに身体がひどく冷たい。
和臣はそんな桜花を見て、懐から布を取り出した。
「どうぞ、これを使ってください」
自分も濡れているにもかかわらず、すっと桜花に白い布を差し出す。
一瞬ためらったが、桜花は素直に好意を受けることにした。
「ありがとうございます、和臣さま」
桜花のそんなもの言いに、和臣はふっと寂し気に笑った。
「わたしはいつも、和臣さま、なのですね。伊織は名だけを呼ぶのに」
突然に言われ、桜花は言葉に窮した。自分にとっては、今まで考えてみたこともないほど自然だったのに。
「えっと、伊織とわたしは同い年で、和臣さまは年上なのですから……」
「本当に、それだけですか」
まっすぐな視線を受け止めきれず、うつむいてしまう桜花に、和臣はまた寂し気に笑う。
「桜花どのは正直ですね。嘘がつけない。みんな顔に出てしまう」
「そ、そうでしょうか」
桜花は借りた布を握ったまま、赤くなって頬に手を当てる。