第158話 龍の印

文字数 454文字

 自分の中で、何かが激しく揺り動かされた。
 灼けるように熱くなる額、そこに龍の鱗の(いん)が浮かび上がってくる。
 甦る遙か(いにしえ)の記憶。
 ああそうだ。幾世代も前、自分は天女を守護し、大空を翔ける龍だった。
 体の奥深く眠っていた力が目覚め、あふれ出してくる感覚と共に、伊織が手にしていた刀が輝き始めた。
 刀身は輝きを増し、まばゆいまでの金色の光を放つ。
 伊織は理解した。これこそが魔を封じる光の剣。
 破邪の剣とは最初から存在するのではなく、自らの意志と力で作り出すものなのだ。
「桜花を離せ!」
 言い放つと伊織は刀を構えた。
 たとえ刺し違えてでもいい。桜花は守り抜いてみせる。
「その刀は……」
 一瞬、浅葱の顔に驚きが浮かんだが、すぐ微笑に取って変わった。
「……面白い」
 桜花を突き飛ばし、相対するように自らも魔剣を手にする。
 浅葱の手から逃れた桜花は、激しく咳こんで崩れ落ちた。




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登場人物紹介

天宮桜花(あまみやおうか)


始祖が天女と言われる家系に生まれた巫女。

破魔の力を受け継ぐ可憐な少女。

大切な人たちを守るため、鬼と対峙していく。

桐生伊織(きりゅういおり)


始祖が龍であったと言われる家系に生まれる。桜花とは幼馴染。

桜花を想っているが、異母兄への遠慮もあり、口にできない。

九条隼人(くじょうはやと)


草薙の若き聡明な領主。趣味は学問と錬金術。

心優しい少年で藤音を案じているが、どう接してよいかわからず、気持ちを伝えられないでいる。

藤音(ふじね)


和睦の証として人質同然に嫁いできた姫。

隼人の誠実さに惹かれながらも、戦死した弟が忘れられず、心を閉ざしている。

鬼伝承が残る海辺の村で、いつしか魔に魅入られていく……。

浅葱(あさぎ)

愛しい姫を奪われた鬼。世を呪い、九条家に復讐を誓う。

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