第129話 ゆらめき
文字数 591文字
数日の後。ようやく桜花は床を出て巫女装束の前に座っていた。
守護石と祖父の薬湯のおかげだろう、体調はすっかり良くなっている。
体が治れば出仕して今回の件を隼人に報告しなければならない。
封印が破られ、鬼が出現したこと。
その鬼は九条家を憎んでおり、今もどこかで誰かに憑いているかもしれないこと。
しかし着慣れた衣装を前に、桜花はなかなか袖を通せないでいた。
いかなる理由があろうと、人々を護るはずの巫女が和臣と伊織を傷つけてしまったのは、まぎれもない事実だ。
自分はこの装束を身にまとうのに、本当にふさわしい者なのだろうか……。
躊躇して動けないでいる桜花の懐のあたりがぽうっと輝いた。祖父から渡された守護石だ。
柔らかな光が迷いをぬぐい去り、そっと背中を押してくれる。
そうだ。今は個人的な事情にかまけている場合ではない。
行かなくては。隼人に真実を伝えなくては。
うつむいていた桜花はしゃんと顔を上げ、白い上着を手に取った。
海ぞいを少し歩き、途中から夏草の茂る小道をまっすぐに進む。ほどなく九条の館が見えてくる。
だが、館を目前にしながら桜花は足を止めた。
暑さのせいではない。館から瘴気が陽炎のようにゆらめいて立ち上っている。
まさか── !?
守護石と祖父の薬湯のおかげだろう、体調はすっかり良くなっている。
体が治れば出仕して今回の件を隼人に報告しなければならない。
封印が破られ、鬼が出現したこと。
その鬼は九条家を憎んでおり、今もどこかで誰かに憑いているかもしれないこと。
しかし着慣れた衣装を前に、桜花はなかなか袖を通せないでいた。
いかなる理由があろうと、人々を護るはずの巫女が和臣と伊織を傷つけてしまったのは、まぎれもない事実だ。
自分はこの装束を身にまとうのに、本当にふさわしい者なのだろうか……。
躊躇して動けないでいる桜花の懐のあたりがぽうっと輝いた。祖父から渡された守護石だ。
柔らかな光が迷いをぬぐい去り、そっと背中を押してくれる。
そうだ。今は個人的な事情にかまけている場合ではない。
行かなくては。隼人に真実を伝えなくては。
うつむいていた桜花はしゃんと顔を上げ、白い上着を手に取った。
海ぞいを少し歩き、途中から夏草の茂る小道をまっすぐに進む。ほどなく九条の館が見えてくる。
だが、館を目前にしながら桜花は足を止めた。
暑さのせいではない。館から瘴気が陽炎のようにゆらめいて立ち上っている。
まさか── !?