フラッシュバック

文字数 824文字

気が付けば、目の前は真っ白だった。
夢から覚めたばかりみたいに、一瞬自分がどこに居るのかを忘れて危うく空を踏んで川へ落ちるところだった。
びっくりしたので、朦朧した意識が急にはっきりするようになった。
ここは欠落した橋の果てだ。ここへ来てどれぐらい経ったかは定かではないが、先刻まで意識がどこかへ飛んでしまったのが確かだ。長い夢でも見たような妙な感じだった。夢の中身を思い出そうと試みても、何一つ思い出せなかった。
ここへ来てから夢を見たことはなかった。睡眠は必要ないと言われているが、習慣として体が覚えているから、その習慣を捨てられずちょくちょく睡眠を取った。ベッドで横になり、目を瞑り、しばらくしたら意識が底なしの闇へ潜っていくように完全に遮断された。起きると何も変化がなく、どれぐらい時間が経ったかも分からず、眠った気分はしなかった。睡眠の楽しみも必要性も薄いではあるが、何かのイベントの区切りとして使うことができる。ここは日付とかがないから、眠りの区間を一日と定義するのにちょうどよかった。
今までの睡眠に夢など見た記憶はなかったが、先程のあれは不思議な体験で新鮮だった。気が付けば全ては終わってしまい、思い出そうとしても思い出せなかった。しこりのような物だけが残った。
「橋の彼方」
その言葉は頭から離れなかった。
向こう岸とここを遮るこの真っ白な霧に無性に腹が立ってきた。霧の向こう側に、俺が求めている答えがある気がしてならない。体中に駆け回る衝動の正体はそこから起因すると確信している。
どうやってこの川を渡っていけるだろう、と心の内で考えた。
したら、フラッシュバックのように色んな画面が頭の中を過ぎった。一貫性のない断片ではあったが、色鮮やかな景色は間違いなく向こう側の景色だった。かつて見た景色であるはずだ。
「そこで何か思い出したか?」
突然後ろから声をかけられた。振り返って見ると、そこにカイトにサヤ、それから変な恰好をしている見知らぬ二人がいた。
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