第76話 閑話休題

文字数 1,143文字

 月曜日の昼休憩、今日は小森十子は出向先で家探しのために休んでいる。中崎透馬は明日出張で前乗りしたいと、昼休憩も取らずに仕事をしていた。社員食堂には消去法で、梶南実と吉永が向かい合って座りランチを取っている。
「…中崎はどうするつもりなんだろ」と梶南実は聞いた。
「さぁ。でもあれは、どう考えてもゾッコンでしょ?」と吉永は言う。
「どうして…中途半端に手を出すんだろうね?」
「さぁ。なんで結婚に躊躇してるんですかね? 小森ちゃん好きなら…。まぁ、あの子、遊びで付き合うような子じゃないから…」
「十子は純粋だからね。付き合う=将来も考えちゃうタイプだから。…結婚ね。中崎は家族ってものに何か引っかかりがあるのかもね」
 梶南実がそう言うと、吉永は思い当たる節があるのか呟いた。
「聞いたことないんですよ」
「え?」
「あいつの家族について。離れて暮らしてるとは聞いたことありますけど…。親がどうとか、あんまり聞きませんね。兄弟の話もしないし」
「仲良くないのかな?」
「さあ…? でもそれだけで結婚しないとか思いますか?」
「何か事情があるのかしら?」
「俺には何も話さないから…」
「そうね。壁みたいなものを感じるけど…。十子には違うから…」
「そうなんですよね。俺が小森ちゃんとちょっと喋ってるだけで、イライラするから、ちょっと面白くてわざと話しかけたりしてるんですけど」
 梶南実はそれを聞いて、ため息をついた。
「はー。もやもやする。好きだったら普通に付き合って、幸せにすればいいじゃない」とテーブルを軽く指で叩く。
「まぁ、もやもやはしますけど。俺は結構、楽しんでますけどね。二人とも…可愛いっていうか」
「吉永は十子で遊んでるでしょ?」
「あ…はい。だって小森ちゃん、可愛いし、真剣だから。この間も色仕掛けしたいとかって…、驚くようなこと言うから、付き合いましたけどね。それが全然、色仕掛けにならなくて、なんだろう? 必死なのに、全然伝わらないところが…また可愛くて。で、可愛いなぁって見てたら、中崎がすぐ来るし。それに…あいつのすました顔がイラっとするのもちょっと面白いから」と笑いを堪える。
「そんな面白がって…。十子が出向するの決めたのって、中崎と離れるつもりだからじゃないの?」
「うーん。あいつ、出張まで入れてストーカーするのに…。離れられるのかな?」
「もう、中崎にイライラする」
「そんなにイライラしないでください。綺麗な顔が台無しです」と吉永は微笑みながら言った。
「綺麗な顔?」
「はい。梶さんの綺麗な顔です」
 次の瞬間、梶南実はどんな顔をしていいのか分からなくて、吉永を見返す。ずっとにこにこ笑っている。一番食えない男かもしれない、と思いながら、それでも話しやすくて話してしまう不思議だ、と同時に思った。
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