3-12

文字数 4,415文字

カルマ fake:recognition 3-12

食卓に並ぶ品は、色んな国の料理が目白押しだった。
子供が好きそうな定番料理のカレー、オムライスにスパゲティ、出汁巻卵にお吸い物、エビチリや小籠包などと言った料理はどれも輝いて見えた。
「スッゲー、うまそう!」
料理を目の前にすると、口の中の唾液が早く早くと溢れてくるのを感じた。
カルマは隊服から、普段着の部屋着に着替え終えてどれから箸をつけようかと悩んでいた。
迷った末に、一番食べたいものから手をつける事にした。

「やっぱり、コレにしよっと!いただきまーす!」
そう言い口に運んだのは、好物のカレーだった。
カレーと言っても豪華なカツが乗り、ルーの中にチーズが泳いでいる、それは大変な魅力を醸し出すカツカレーだった。
「どうぞ、召し上がれ」
白蝶がニコニコ微笑みながら皆の様子を眺めていた。
カルマは一口目を頬張る、鼻に突き抜けるカレーの匂いはなんとも食欲をそそられた。
程よい辛さのカレーのルーが、体に染み渡っていく。
ルーにも負けず、サクッと音を鳴らす衣に包まれたジューシーなカツも絶品だった。
また、チーズの旨味がより一層食欲に火をつけご飯が止まらなくなった。
「おかわりもあるから遠慮なく言ってね」
がっつくカルマに、微笑みながら白蝶は言った。
「おかわり!」
カルマは目を輝かせ、元気よく次のご飯を催促した。
薄桃色の髪を揺らしながら、双子たちはお櫃からお米をよそった。
「カルマさん、いっぱい食べてくださいね!作った方も喜びますから!」
カルマは出汁巻卵を頬張りながら、双子の発言にふと思った。
「この出汁巻卵も、出汁が効いてて絶品だな…誰が作ったんだろう?」
疑問を口にするカルマをよそに、皆の目がある人物に注がれているのを鈍いカルマは気づかなかった。
「ん?オレなんか変なこと言ったか?」
カルマは皆の空気に、何かまずい事を言ったのではと焦った。
スバルが、ごほんと咳払いをして話を変えた。
「おまえは、アホ面して何も考えず食べてればいい」
「ひどい言い草だな!あっ、この小籠包もめちゃくちゃウマッ!」
カルマは怒りも忘れるくらい、美味な料理に舌鼓をうった。
美味しい料理の前では、余計なことを考えるのをやめて料理に集中するのが得策だと悟った。


食事もあらかたすませて、賑やかな食事会はお開きになった。
片付けを手伝おうとしたが、双子たちに主賓にはそんなこと頼めませんと追い出されたので、気分転換に屋敷の縁側で夜風に当たることにした。
カルマは、ここのところ色々あった中で、久しぶりに心休まる時を過ごした気がしていた。
だが、カルマの心には狗神縁紫という名前が引っかかっていた。
カルマが夜風に当たり涼んでいると、後ろから誰かがやってきた。
「よお、隣いいか?」
声の主は鏑木だった。
「隊長!どうぞ」
鏑木は、カルマの隣に腰を下ろした。

「今日は、夜風が気持ちいいな。それで、カルマ。何か悩み事か?」
カルマは、鏑木の一言にドキリとした。
「オレ、何か顔に出てました…?」
思わずカルマは、鏑木に聞いてしまった。
「ハハッ、顔にというよりかは背中が語ってるに近いな」
鏑木の答えに思わず背中を気にする。
「それでどうした?何かあったか?」
鏑木が、浮かない顔をしたカルマの返答を待っている。
聞くなら今しかないかもしれないなと、カルマは覚悟を決めた。
「あのー、隊長。隊長に、聞きたい事があるんですが…」
歯切れの悪いカルマに、快活に鏑木は応えた。
「おう!どうした?言ってみろ」
「実は、その…。狗神、狗神縁紫って人知っていますか?」
カルマは意を決して鏑木に尋ねた。
鏑木の応えを待っている間、カルマの心臓は鼓動を速めた。
鏑木の口は沈黙を破り動き出す。
「ああ。知っている。狗神縁紫…、確かにオレはその名前を知っている」
「狗神縁紫のこと、隊長は知っているんですか!?」
カルマは、思わず食いついたように聞いてしまう。
「どういう人だったんですか?」
鏑木はゆっくりとこたえ出す。

「そうだな…、実直でお人好しで、後先考えないで首を突っ込みがちな所が、誰かさんにソックリだった」
鏑木にまるで、自分の事を聞かされているのではないかと思ってカルマは少しムッとした。
「狗神縁紫は俺の先輩にあたる人だ。その人には、色々教えてもらった、だから今の俺がいる」
鏑木から思いがけない情報を得た。
狗神縁紫は、鏑木の先輩だったと。
「隊長の先輩だったんですか?」
「前に少し俺の過去の事を、おまえに話したが覚えているか?」
「はい!覚えています」
それはアマミの研究所に向かう道中であった。
中々寝付けないカルマに、鏑木は自分の昔話を聞かせた。

「鳴動が、死んでしまった事により、俺は彼の代わりに八咫烏へと入ることになった。だが、こんな経緯の俺を歓迎する奴は居なかった。親友殺しというレッテルを貼られ、誰も寄り付こうともしない。それでも、俺は任務さえあればよかった。任務を遂行している時は、何も考えなくても済んだ。そんな俺に、唯一話しかけてきた男がいた…狗神縁紫、その人だ」
鏑木は、狗神縁紫とのことを昔を懐かしむように語り出した。
「狗神縁紫は、おまえはいつも一人でいるな、他に組む奴とか居ないんなら、オレたちのところ来ないかといい強引にオレをチームに招き入れた」
鏑木は、狗神縁紫のことを思い出し、苦笑いをした。
「全くもって強引だった。オレの方が先輩なんだから、後輩は先輩の言うことを聞くもんだぞ!などといい無茶苦茶だった。だが、先輩らしくアイツは俺の知らなかったことを教えてくれた。俺はずっと一人でいいと思っていたが、信頼できる仲間というものはかけがえのない事だと教えてくれた」
だんだんと掴めてくる、狗神縁紫の人物像にカルマは、夢中になって話を聞いた。

「俺もあの頃は、若かったからな…。最初は、信じきれずにいた。だが、共に任務をこなしていく内に狗神縁紫の実直でお人好しさに呆れた」
「呆れたんですか?!」
鏑木の発言に、カルマは衝撃を受けたのか目をパチクリとさせていた。
「故に信じることができた。だからこそ、狗神縁紫が消息を絶ったと聞いた時、俺は誰よりも驚いた。狗神縁紫の俺が知っている性格上、誰にも何も告げずに一人で組織を抜けるなど思えなかったからだ」
「隊長…」
鏑木は当時を思い出したのか、その顔は険しくなっていく。
「狗神縁紫が消息を絶ってからというもの、組織を裏切ったから消されたという噂が一人歩きしていった。何度も俺は上層部とかけ合ったが、上は捜査を打ち切った。今では、口に出しては頭のおかしい奴認定される。今だに何も掴めないまま、おまえと出会った。おまえの名前を聞いた時は、正直驚いた。何せ、十数年ぶりに狗神という名前を聞いたからな。おまえが連れて行けと啖呵を切ったとき、俺は運命的な何かがあると直感した」
鏑木は、カルマを力強く見つめる。
衝撃的な話の連続で、カルマは頭の整理が追いつけずにいた。

「俺は、今でも真実を知りたい…そう、思っている。カルマおまえはどう思う?」
鏑木の問いに、カルマは真剣に考える。
「オレ…正直、狗神の家で知ってるのじいちゃんしか居なかった。そのじいちゃんも何も教えてくれなかった。突然、狗神縁紫って人の話を聞かされて戸惑ってる…。けど、そこまで聞かされたら、どうしてそうなったか知りたいと思う。もしかしたら、血縁かもしれないし、出来れば話してみたい。だけど、まだ実感が湧いてこない」
「そうか、そうだな…。おまえにとっては突然だったな。だが、覚えといてくれ、狗神縁紫という奴が居たと言う事を」
鏑木の願いにカルマはこたえた。
「忘れませんよ!オレ絶対に忘れません!なんなら隊長のことも忘れませんよ!」
そう言いカルマはニカッと笑って見せた。
「フッ、そうか。…そろそろ、夜風も冷えてきた。戻るぞ」
鏑木は優しくそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「はい、そうですね」
カルマは鏑木の後に続いて立ち上がった。
ふと、鬼の仮面の兄弟が頭によぎった。
彼らも、忘れないで欲しいと言っていたことを。
カルマは、思い出していた。

空から見える月を見ながら、カルマは思いを馳せる。
(狗神縁紫…。どんな人か、何を考えてたかはオレは知らない、けど、絶対アンタが居たという事実は忘れない)
月に向かって拳を突き出し、誓って見せた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

カルマの試験から一週間程だったであろうか。
カルマと十六夜議会の一員であり、現頭目を務める神々廻観音が、謁見した場所が何やら騒がしい。
鏡面のような床に、桜がひらひらと花びらを落とす様がなんとも美しい場所に、神妙な面持ちの者たちが集う。
皆、手練れであろう者たちが十五人程であろうか集まっていた。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。…今まで空席だった第九席についてじゃ…四ツ谷よ、入れ」
名を呼ばれた者は、頭目の前に跪いた。
「はっ、ここに」
神々廻観音は、その頭を垂れる女を冷厳なる眼差しで迎えた。
「四ツ谷七星よ、狗神苅磨の左腕はそなたの作品で間違いないな?」
「はい、間違いなく私の作品でございます」
四ツ谷は、いつもの飄々とした雰囲気と違っていた。
「この間の、試験での結果を持ってそなたの研究の成果、しかとこの目で見させてもらった。そなたの手柄褒めてしんぜよう。そこで、四ツ谷を我が十六夜議会の一員に新たに加えようと思っている。どうじゃ、皆の者よ何か意見があるか?」
十三議席の一人、第七席の花衣が一番最初に口を開いた。
「四ツ谷は先代の第一助手。先代の意思を継いでアマミにある研究所に籠って、主に龍血関係の研究をしている。ウチも必要ならば、検査を回してる。今の所、私は不満はないわ」
「ああ、リチャードなんちゃら星雲とかっていう、じいさんの所か」
花衣の言葉に反応して、不躾な男、第ニ席雷染が適当に思い出した事をいう。
「リチャード・星雲・成吉よ!龍血の研究の先駆者よ!全く、相変わらず失礼な奴ね」
花衣はそんな雷染に呆れながら訂正する。
「別にこまけーこたぁ良いだろ。つーか、頭目に異議唱える奴なんて居ねーって」
雷染はバツが悪そうに言った。
「まあ、それは言えてるわね」
花衣が雷染の意見に同調する。
「てか、第九席の前任者もリチャードっていう人でしょ?それに、頭目に逆らえないって言う意見に賛せーい」
遠くから、式神を使って会話に参加しているのか、影のような姿で第六席の出雲路は語り出した。
「ほっほ、そうかのう?特に、ないようなら四ツ谷を第九席に就任ということで話を進めて良いかの?」
静寂な刻が、肯定を示している。
「では、今宵を持って四ツ谷七星を第九席に、迎え入れる事とする!」
「はっ、有難き幸せ!四ツ谷七星、これからも精進する次第であります」
神々廻観音の言葉に、四ツ谷はより深く頭を垂れてみせた。
神々廻は、満足したかのように目を細めて肯定して見せるのであった。
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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