3-3

文字数 3,003文字

カルマ fake:recognition 3-3

皇スバルは一本の棒を持ってきた。
「あのー、スバルさん。それは、一体なんなんでしょう?」
「見れば分かるだろ?」
「それ!お寺とかでお坊さんが叩いてくる奴では!?」
「だから、どうした?警策を使う」
警策って何?という問いかけに、呆れたような顔をしてスバルは説明した。
「お前、馬鹿そうだからな。馬鹿でもわかるようにした」
いちいち突っかかる事を言わないと話せないのかとツッコミたかったが、教えて貰う側としては仕方なく煮え湯を飲んだ。

「嫌そうな顔だな、嫌なら別に良いんだぞ?」
「待って!教えてください、お願いします!」
もうなかば、ヤケクソに近い状態だったが背に腹は変えられなかった。
「とりあえず、おまえはいつも通り座禅を組んでいれば良い」
思わずスバルの次の言葉を待つが、沈黙が流れただけだった。

「…それだけ?」
「それだけだ、じゃあな」
そう言ってスバルは出て行った、稽古場の扉が閉められ静寂が訪れた。
(ええ!!どう言う事!!?教えてくれるんじゃなかったの!?もしや、田舎者だと騙されたんじゃなかろうか!え、やだ、都会ってこぇえ)
スバルは頭を抱えて、グルグル考えた。
(うん、考えるのやめよう)

どうせ責め立てても、勝てやしないと悟りが訪れた。
「座禅…始めよう…」
大人しくスバルに言われた通り、座禅を組むことにした。

あれから、一時間はたった気がする。
(これって、もしや忘れられてる?それとも、放置プレイという奴なのでは!?)
カルマは再び、雑念にかられ身体が小刻みに揺れた。
するとパァンと肩が思い切り叩かれ、ハデな音が鳴った。
痛みが後を追うようにやってきた。
肩を押さえて、前のめりになる。
「痛いんですけど!?」
涙目になりながら見上げると、スバルが警策を持って立っていた。
「龍気も乗せて叩いたからな、痛いだろ」
さぞありなんという態度で、スバルはカルマを見下ろす。

「龍気を使うのは、禁止でお願いします!」
懇願するカルマに、スバルはまるで生ゴミを見るような目で返した。
「それじゃ、修行の意味ないだろ」
「へ?」
「おまえ、バカを超えてるぞ?」
スバルの容赦ない一言に、いちいち腹立ててる場合じゃないとカルマは自分に言い聞かせた。
「わ、わかるように説明して…欲しいんですけど」
「おまえの修行の目的は何だったんだ?」

そう、スバルに問われ、役一時間程前のやり取りを思い出した。
「相手の龍脈の気配を感知すること…あ!」
「フン、なら意味も分かるだろ?」
「そっか!龍脈の気配を感じ取って、突然やってくる警策を回避すればいいのか!」
ここまで来て、カルマはやっとピンと来たようだ。
「だが、躱すな。警策が来るピンポイントに龍気を集めてガードしろ」
「むむ、確かにそれなら…コントロールの練習にもなるやも」
提案に納得したカルマに、スバルはアドバイスを増やした。
「オレの気配を、さっさと覚えておくことだ。実戦じゃ猶予はない」
そう告げてスバルは、再び姿を消した。
「押忍!」
再び座禅に戻るカルマは、ふと何だかんだ口は悪いが親切だなと思い返し少し嬉しくなった。



スバルは晴れない気持ちを抱えていた。
(はぁ…、先生も人が悪い。昨日、オレが近くにいるのわかっててあんなこと聞かせるとか)
昨晩、白蝶がカルマを宥めている現場に出くわした。
カルマが、こんな世界に足を踏み入れる原因になった一つに、八咫烏が…自分達がもっと早くに終わらせていれば、もしかしたら今も平和な日常を送れたかもしれない。
八咫烏は代々続いている一族も多いが、カルマの様に不幸な出来事から加わる者など、皆色々事情がある場合も多い。
カルマのような犠牲者を、出さないよう努めているのにとスバルはやるせなさを感じていた。

「痛ってー!!」
稽古場に声が響き渡る。
「ちょ、ちょっと、勢い強すぎませんかね!?」
「反応が遅い…」
相変わらずカルマは苦戦を強いられていた。
あれから、警策を食らうこと十数回。
日が暮れるまで、稽古場はカルマの叫びが続いていた。

今日の修行を終えてカルマは、自分の部屋に居た。
「痛てて…このまま毎日、モロに食らって居たら背中が持たない気がしてきた」
(今、思い出しても腹が立つ…)
「素人ならこんなものだろ、お前は素人だから安心しろ」 といいスバルは、カルマに興味はないという顔をして出て行った。
(教えてくれるのは、ありがたいが…ぐぬぬぬぬ)
もうすでに寝息を立てているシロを見つめる。
ちゃっかり、夕ご飯の頃には帰ってきていたようだ。
このままだと、神経が昂ぶって中々寝付けそうにない。

カルマはシロが、起きないように静かに自室を出た。

外の空気に当たる、縁側を歩きながら見る、屋敷の庭は中々風情があった。
カルマの顔を撫でていく夜風が気持ち良かった。
少し進むと、其処には少女が佇んでいた。

「ああ、ごめん。眠れなくって夜風で涼もうかと思って…邪魔したかな?」
「別に…邪魔ではない、居たいのなら居れば良い」
右側の蒼い瞳をこちらに向け、レンは素っ気なく答えた。
「じゃ、お言葉に甘えて」
カルマはそういうと、レンのとなりに腰を下ろした。
レンは口数が多い方ではない。
彼女とのコミュニケーションは、こちらに来てから僅かにしかしたことが無かった。

先に口を開いたのは、レンだった。
「スバルと修行してるの?稽古場から凄い音が聞こえる」
「あー、聞こえてたか…。実は、試験までの間に自分で龍血の扱いを整えないと行けなかったんだけど、一人でやっても上手くいかなくてスバルに教えてもらったんだ。まずは、基礎の気配を感知するとこからをね」
カルマは、自分の叫び声を聞かれてたと思うと少し歯がゆかった。
「そう、それは大変ね」
「あ、あのさ、レンも気配感知出来るんだろ?コツとかある?」
「コツ…?」
カルマに聞かれたレンは、考え込んでしまった。

「やっぱ、ない感じ?」
「いつも考えたことなかった…けど」
「けど?」

「動物達は、気配を感じる器官を持っている個体がいるわ。準静電界を感じ取ってるの。これは生き物というものは、微弱ながらも電界を纏っている。それを、感じ取る器官。人は内耳なのではないかと言われている」
レンが語り出す言葉は、専門家のようにしっかりしていた。

いまいちピンと来ていない、カルマにわかるようにレンは自分の感覚を探るように教えてくれた。
「目を閉じて静かに感じるの。肌というか空気なのかな…耳の奥から伝わって糸がピンと繋がる感じ」

「お、おお!!なんとなくわかったかも…」
「とりあえず…私の気配を感じてみて」
レンに提案され集中をかける場所が、なんとなしにわかったカルマは実戦してみる。

耳の奥から頭の中に伝わってくる、自分の龍脈と相手の龍脈が共鳴しているような不思議な感覚が少し感じることが出来た。

何か掴めたカルマは勢いよく立ち上がった。
道が拓けそうな高揚感が体に感じた。

「ありがとな!レンのお陰でなんか上手く行きそうな気がしてきた!!」
いきなりのカルマの発言に、少し戸惑うレンであった。
「オレもう少し練習してみる!おやすみレン!」
こうしてはいれないと、今を逃したらまた掴めなくなる。
そうカルマは考え、今の感覚を忘れないうちに習得しようと思い立った。

忙しなく走り出して行ったカルマの背中をレンは見送る。
「おやすみ…カルマ」

レンは夜空を見上げながら、初めての同世代らしい会話を体験した感覚をぼんやりと感じた。

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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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