3-9

文字数 2,739文字

カルマ fake:recognition 3-9

カルマの勝負がしたいと言う、一言から一騎打ちが始まった。
赤い鬼は、殺気立つ肉食獣のようにカルマに襲いかかった。
至近距離からの攻撃を、カルマは柳のようにいなす。
まるで炎のように掴めないカルマに、赤い鬼は苛立ちを隠せない。
(さっきから、攻撃が当たらねぇ…!)
それでも、赤い鬼は攻撃を止めない。
躱しているとはいえ、カルマは徐々に追い詰められていく。
(しめた!アイツの後ろは木だ、もう退がれない!)
「ッ!?
カルマの背後には、大木がそびえ立っていた。
「こんの!さっさとくたばりやがれ!!」
赤い鬼は、腕に力を込めてカルマを狙う。

会場から試合を見ていた者たちは、ついに試合が終わるのかと息を呑んだ。

だが、大きく殴りに出た赤い鬼の隙を、カルマは見逃さなかった。
真っ直ぐ伸びきった、赤い鬼の右腕の肘上を抑え、カルマはそのまま体重を乗せた頂肘を喰らわせた。
赤い鬼は、頂肘をモロに脇腹に食らい吹き飛んだ。
「がぁッ!!?」
水晶型のプロジェクターから、試験の様子を見ていたスバルは驚いた。
(あの動き…この間までのアイツの動きからは、考えられない…オレ達の動きを覚えたのか?)
訓練に付き合ってはいたが、正確に武術を教えた事はなかった。
ほぼ基礎の龍血の扱いに集中している中で、カルマは師達の動きも学習していたようだ。
そんなカルマの様子を見て、鏑木は満足気な表情をしていた。

吹き飛んだ赤い鬼は、浅い呼吸を繰り返しながら口から血を吐いた。
(負けたのか…俺達は…?)
「俺は…まだ…」
「兄者…もう辞めよう。もういいんだ」
「坤…」
青い鬼は対になる、最後の一本の矢をカルマに差し出した。
青い鬼は赤い鬼に腕を貸し、カルマに別れの挨拶をした。
「俺達がいた事…、忘れないで欲しい」
「ああ…、忘れない」
「フッ、色々悪かった…」
青い鬼の表情が面のせいで、読めなかったが少し寂し気に見えた。
そして、勝者を残し二人は消えた。

カルマは矢に結んである紙を解く。
そこにはちゃんと「阿吽」の文字が揃っていた。
「やった…!シロ、オレ達勝ったんだな!」
バウッとシロも嬉しそうに吠えた。
喜びを分かち合う一人と一匹の様子が中継された。

会場の人達は、皆一様に人見のほうを向いて宣言を待っていた。
人見はやれやれと、一息ついて宣言する。

「狗神苅磨の此度の試験…、合格とする」

その言葉を受け、顔には出さないが各々嬉しそうな様子だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


静かな病院の中で、似つかわしくない歓喜の声が室内から響いた。
「院長!どうやらカルマくん勝ったみたいですよ!!」
「小鳥、大きい声出さないでちょうだい!ちゃんと聞こえてるわ…」
「うぇ〜ん、院長…私嬉しくって!!」
瞳に涙を溜めながら花衣のほうへ向く、椿乃小鳥の様子に、溜息をつきながら花衣は窘めた。
(どうなる事かと、思ったけど…あの子やるじゃない)
「ハイハイ、わかったから。仕事に戻るわよ」
「ふわぁい、待ってくださ〜いよ〜」
椿乃小鳥は急いで、院長の後について行った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ただいま!」
着て行った衣服が、所々ボロボロになりながら戻ってきたカルマに、スバルは早速悪態づいた。
「遅い!もっと修行しろ!」
「たはは〜、今帰ってきたばかりだぜ〜?」
カルマは、スバルの文句にも慣れたものでおどけて見せた。
「よくやった、カルマ。…合格だ」
「鏑木隊長〜!…オレ、やったんですね!」
鏑木からの言葉で、実感が湧いてきたカルマは、感動からか少し目頭が熱くなった。

「いやー、感動しましたよ。狗神苅磨くん?」
パチパチと手を叩きながら、顔には笑顔を貼り付かせて人見彗國は現れた。

「人見こんな時まで、嫌味でも言いに来たのか?」
スバルが不貞気味に問いかける。
「そんな滅相も無い!皇くんは本当に意地悪ですね。私は兄弟子だと言うのに、もう少し優しくして下さい、ただ手に入れた矢の確認なりしに来ただけです」
人見に試験で取ってきた、矢と紙を渡しながらカルマはスバルに問う。
「えーと、ところでさ、スバルの兄弟子なのか?」
カルマの唐突な質問に、スバルは牙を剥く。
「余計な事を聞くな!!毬栗頭!!」
「それ、オレの事かッ!?ちょっと、聞いただけだろー!?」
喧嘩でもおっぱじめそうな雰囲気になる二人をよそに、鏑木は要件を聞く。

「それで人見、確認は済んだか?」
「ああ、これは本物ですね!狗神苅磨くん、君は正式に試験に合格という事になります。…と言う事で、頭目が君を呼んでいます。私について来て貰えませんか?」
突然の頭目への謁見に、カルマは驚きを隠せない。
「頭目が…?」
「ええ、無事に合格されたので貴方に興味があるそうです。フフ、頭目が直々にお会いになるなんて滅多に無い事ですよ?」
カルマは、鏑木を確認するように目線をやった。
その視線に、気づいた鏑木は頷いた。

「では、此方に。おっと!私とした事が忘れてました」
パンッと一回手を鳴らし黒服を呼び付けた。
黒服の耳元で「例の始末頼みましたよ」とほかの誰にも聞こえないように一言伝える。
黒服は、「御意」と言ってその場から消えた。
「ああ、申し訳ない。会場の後始末を頼むのを忘れていたものでして、では今度こそ参りましょう」

そう言い人見は、境界の門を開いた。

境界の門をくぐると薄暗い通路に出た。
「あれ?みんなは?」
「すみません、頭目がお呼びなのは君だけでして」
「そうなんですか…」
「大丈夫ですよ、取って食いやしませんって。
ささっ、此方です」
人見に促されるままに暗がりを進む事にした。
そこは巨大なトンネルにも見える通路だった。

僅かな明かりに見えるのは、石垣と石垣の上に構える梁、そしてそれを支えているであろう巨大な柱達だった。
「フフッ、驚きましたか?闇り通路と言いまして、ここは、ある城の通路を模した物になっております」
「へー!こんなに凄い建築を間近で見たのは初めてだ」
「でしょうね、今時城巡りでもしない限りは目に掛かりませんね」
たわいも無い会話をしながら暗がりを進んだ。

奥へ奥へと誘われたどり着いたのは、地下にある巨大な本堂であった。
本堂の中は、美しい板張りがされた床に、地下だと言うのに、吹き抜けからは見事な枝垂れ桜達が顔を覗かせていた。
床に反射する桜達は、そこの間をより神聖な物へと変貌させた。
「こんな時期でも桜が咲いているんですね…」
「ええ、まぁ…特別な桜なので」
靴を脱ぎ鏡面のように輝く床に足をつける。
高級そうなそれにカルマは緊張して、背筋が伸びた。
「頭目。狗神苅磨をお連れし、人見彗國、只今、戻りました」
人見が頭を深く下げる様子を見て、慌ててカルマも頭を下げた。

「ほう…、お主があの狗神の血筋を引く者か」
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登場人物紹介

狗神苅磨《いぬがみかるま》

主人公、ある事件に巻き込まれ八咫烏に所属することとなった。

皇スバル《すめらぎすばる》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人。

神経質で口が悪い。鉄の糸の使い手。

綾瑪玲音 《あやめれん》

八咫烏の鏑木隊のメンバーの一人の少女。

機械のように感情の起伏に乏しい。

高木繭花《たかぎまゆか》

苅磨の高校の先輩。

好奇心旺盛で、お節介な性格。

菜月《なつき》

苅磨がお世話になっている夫妻の一人娘。

苅磨を兄のように慕っている。

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