第6話 これって、なんか変なんだよな。 1

文字数 1,661文字


 2024年1月26日(金)。
 昨日の25日のことなんだけど、芦屋の元大学教授宅で開かれる勉強会に招待されていたんだよ。
 5名の女性グループの中に、Sチュータークラスの同期が2名いてさ、好きなことを言い合える文学友だちなんだ。
 ずうっと部屋に籠っていたので、久し振りの外出だし、女性ばっかりだし、喜んでいたんだよ。
 3日前に京都の「コストコ」で、手土産として一箱20個入りのドーナツも買っていたんだ。
 連れて行ってくれた息子が、
「そんな、安いものでいいのか?」
「高級なお菓子よりも、これのほうが面白がってもらえると思う」
 ぼくはいつもウケを狙うんだよな。

 最寄り駅から乗り換えなしで行けるし、▲▲さんと待ち合わせをする改札も一カ所だし、合評する2作品も読み込んだし、準備はOKだ。

 ところが、前夜から近畿地方に大雪が降ると注意報が出るし、妻からは、元々雪だと駅までの送迎は出来ないと釘を刺されていたし、国道8号線は栗東市の辻交差点から長浜市まで通行止めだし、電車も所々運休しているようだしで、行くことを断念したんだ。

 そこで、▲▲さんからメールで教えてもらっていたケイタイに電話をすることにした。
 ぼくは目が不自由だから、アイフォンのSiri(シリ)に音声で繋げてもらうんだよ。
 パソコンの画面に拡大した電話番号を言うだけなんだけど、ぼくにはけっこうハードルが高いんだ。
 というのは、ぼくが言った数字と違う番号をSiri(シリ)が復唱したように聴こえるんだよな。
 だから、一回目は慌てて切ったんだ。
 しばらくするとスマホが鳴ったので、間違いだと謝ろうとすぐにでると、
「○○ですけど、どちら様ですか?」
 主催者の女性だったんだ。
「待ち合わせている▲▲さんにかけたのですが、間違えました」
 といって、今日は行くことを断念したことを伝えたんだ。

 Siri(シリ)が誤動作したと思って、もう一度、番号を読み上げると、また○○さんが出た。
「待ち合わせている▲▲さんにかけたのですが、間違えました」

「この、バカSiri(シリ)め!」って感じで、もう一度、ゆっくりと番号を読み上げたんだ。
 今度は呼び出し音だけで、出てこない。

 これを読んでいる人はすでに気づいたと思うんだけど、ぼくはこの時に気づいたんだ。

 誤動作をしているのは、Siri(シリ)ではなくてぼくだってことを。

 モニターに拡大している番号は、○○さんの電話だった。

 ○○さんは、またぼくからだと思って呆れたんだろうな。
 それを思うと、笑ったな。

 次は、正常に▲▲さんに繋がって、行けなくて残念だと伝えたよ。
 ここで、「断念」を「残念」に変えたんだけど、分かってもらえたかな(笑)。

 すると、しばらく経って電話がかかってきたんだ。
 ▲▲さんからで、「みなさんも外出が不安なので、ZOOMですることになりました」
 いやあ、よかった。
 この3年間ぐらい、文学学校の合評はZOOMだったので慣れている。

 顔はよくわからないけど、声は聴くことが出来る。
 午後2時30分からの開始を心待ちにしていたんだ。

 いよいよ、ZOOMも繋がり、みんなの顔もモニターに映ったので挨拶をしたんだけど、誰の声が聴こえない。
「あれ、どうしたのかな。ぼくの声、聞こえてますか?」
 モニターに顔を近寄せても、相手の表情がわからない。

 ぼくのスマホに▲▲さんかかけてきてくれて、ぼくの声はみんなに届いていることがわかった。

 これ以上、みんなの邪魔をしてもいけないと思って、退出しようと思ったんだけど、
 ▲▲さんかパソコンの音量を最大にして、スマホを前に置いてみんなの声が聴こえるかをためしてくれたんだけど、くぐもった声で内容はまったくわからない。

 そこで、ぼくが最初に2作品の評を語って、退出することになったんだ。

 ということで、好き勝手なことを言いっ放しで終わってしまった。

 アクシデントがあると、全く対応できないんだよな。
 でも、どうしてぼくにだけ声が聴こえないんだ。
 
 これって、なんか変なんだよな。



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