第10話 これって、変な考えなのかな。 

文字数 731文字


 今日、行った歯医者さんの帰り道のことなんだ。

 毎回、行くときは妻が自動車で送ってくれている。
 ぼくとしては、歩いて30分ぐらいなので、のんびりと陽気を楽しみながら散歩がてら行きたいんだけれど、頑張り屋さんの妻は送って行くというんだよ。
 ありがたいことだよね。

「帰りは、わざわざ電話をして迎えに来てもらうのは悪いし歩いて帰るよ。」
 妻を気遣うふうを装って、丁重にお断りをした。

 ぼくが暮らしているところは、田舎の旧街道によくあるように、車道を優先してあるので、歩道は狭くて、雨が溝に流れやすくするため斜めになっているんだ。
 小学校の通学路にもなっているんだけれど、でこぼこして歩きにくいんだよね。

 向かい側から歩いてくる気配がしたので、ぶつからないようにと立ち止まって待っていたんだ。
 雰囲気で男の人だとわかる。
 その人が通りすがりに「じゃーまなんだ」と発したんだ。

 邪魔なんだ。

 言葉の意味がわかったので、振り向いて男の人の後ろ姿に目をやった。
 まぁ、見えないんだけどね。
 声の調子から考えると、ぼくに近い歳だと思う。
 定年後の余暇を楽しめないけど、健康には留意してウォーキングを欠かさずやっているんだろうな。
 きっと、会社ではバリバリ仕事をこなしていたんだろうな。
 
「そんなに、自分を邪魔者として思わなくてもいいんじゃないかな」
 もう遠くへ行ってしまった人に声をかけた。
 
 よく他人に「バカ」という人は、自分の知性のないことをどこかで気づいていると思うんだ。
 だから、それを否定したいからこそ、声高に「バカ!」と叫ぶんだ。

 もっと、ゆるやかに生きていけないものなのかな。

 自分のことを、「邪魔」って考えないほうがいいよね。

 これって、変な考えなのかな。

 




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