第19話 昭和生まれの穴あけ野郎パンチ
文字数 1,575文字
「お控 えなすって!」
甲高い声にビックリして太郎たちは振り向いた。
「お初にお目にかかりやす。あっしは昭和生まれの穴あけ野郎パンチと申します。縁あってこの組(家)に買われて参りやした。以後お見知りおきを」
パパさんがよく行く老舗の『昭和文具店』から買ってきた穴あけパンチ。意気揚々と時代錯誤のあいさつをしてきた。
「なんだ!なんだ。てめぇは」
げんさんが聞き捨てならないといった顔でずいっと前にでた。
「こりぁ、消しゴムのだんな。あっしに関わるとケガしますぜ」
「ケガならしょっちゅうだ。あんまり派手な口きくとそっちがケガするぜ」
「ほう。風穴明けられたいのか」
「そっちこそ消されたいのか」
二人の目からバチバチバチっと火花がとんだ。
「ちょっと、まって、まって」
たまらず太郎があいだに割って入った。
「おっと、これはえんぴつ削りの太郎アニキ。おうわさはかねがね。アニキほど腹黒い男はいないそうですね」
「確かに、削りカスの黒鉛で黒いけど...」
「腹にカスをためる者同士、仲良くたのんますぜ」
パンチは笑ってその場から片手をあげて立ち去っていった。
すっかり困惑してしまった太郎。一方となりのげんさんは久しぶりに骨のあるやつがきたとなぜか喜んでいる。
パンチはそのあとコロロちゃんをコロロ姐 さん、孫兵衛さんを親分と呼ぶようになっていた。
「『昭和生まれで初めてシャバに出た』って、ただの売れ残りじゃない」
「ワシは目をつぶってうなづいとっただけじゃ」
確かに。やっぱり二人には頭が上がらない。
「まったく・・どうしてもそっち(任侠 )の世界にもっていきたいみたいね」
「じゃあ、こっちの世界に引き込むかのう。お灸をすえるといいじゃろ」
「どうやって?」
孫兵衛さんはコロロちゃんに耳打ちをした。
*
机で一番ながめのいい電気スタンドのとなりで寝そべっていたパンチのもとに孫兵衛さんとコロロちゃんがやってきた。
「コロロ姐さんに親分、呼んでいただけりぁこっちからうかがいましたのに」
「いやいや野暮用だ。パンチよ、すまんがこの紙にたくさん穴を開けてくれんかのう」
両手いっぱいに運んできた使い残された紙たちをパンチの前に並べた。
「おやすいごようでさ」
さっそく腕まくりをして紙にパスン、パスンと穴をあけていった。
10枚、20枚・・50枚・・100枚・・500枚
「ふぅ。もう開けるとこねぇな」
パスン、パスン
(ああ、腹いっぱいだ)
孫兵衛さんとコロロちゃんは満足そうにわずかに残った紙を集めた。
「じぁ、あとはまさとくんにカスを捨ててもらうがええ」
パンチはまさとくんに気づいてもらうまでおとなしくすることにした。
* *
その夜
「パンチかすがいっぱいだ」
気づいたまさとくんは穴あけパンチのフタをあけた。
するとパラパラと赤、青、黄色、緑、金色、銀色、ピンクの丸いカスたちがとびだした。
「あっ色紙だ。かわいい」
丸い色紙たちはパンチに向かっていっせいに言った。
「おじちゃんありがとう。捨てられそうだったぼくらを生まれ変わらせてくれて」
「お、おおー」
自分のお腹から生まれた小さな命の感覚がパンチのこころを揺さぶった。
「ああーなんか・・しあわせだぁ」
* * *
「さあ、みんな、はがれないでおくれよ」
パンチはからだに丸い色紙たちをつけて太郎たちの前にやってきた。
まさとくんが捨てるのはもったいないからと、パンチにのりでくっつけたのだ。
「パンチおめえ水玉もようでファッションも昭和だな」
げんさんはすっかり見た目が派手になったパンチをからかった。
「なにを言われても気にしないもんねぇ。ねぇー」
ニコニコのパンチに水玉もようの色紙たちも「ねぇー」と返した。
遠くから見ていた孫兵衛さんとコロロちゃん。
「孫兵衛さん計算通り?」
「計算外じゃ」
甲高い声にビックリして太郎たちは振り向いた。
「お初にお目にかかりやす。あっしは昭和生まれの穴あけ野郎パンチと申します。縁あってこの組(家)に買われて参りやした。以後お見知りおきを」
パパさんがよく行く老舗の『昭和文具店』から買ってきた穴あけパンチ。意気揚々と時代錯誤のあいさつをしてきた。
「なんだ!なんだ。てめぇは」
げんさんが聞き捨てならないといった顔でずいっと前にでた。
「こりぁ、消しゴムのだんな。あっしに関わるとケガしますぜ」
「ケガならしょっちゅうだ。あんまり派手な口きくとそっちがケガするぜ」
「ほう。風穴明けられたいのか」
「そっちこそ消されたいのか」
二人の目からバチバチバチっと火花がとんだ。
「ちょっと、まって、まって」
たまらず太郎があいだに割って入った。
「おっと、これはえんぴつ削りの太郎アニキ。おうわさはかねがね。アニキほど腹黒い男はいないそうですね」
「確かに、削りカスの黒鉛で黒いけど...」
「腹にカスをためる者同士、仲良くたのんますぜ」
パンチは笑ってその場から片手をあげて立ち去っていった。
すっかり困惑してしまった太郎。一方となりのげんさんは久しぶりに骨のあるやつがきたとなぜか喜んでいる。
パンチはそのあとコロロちゃんをコロロ
「『昭和生まれで初めてシャバに出た』って、ただの売れ残りじゃない」
「ワシは目をつぶってうなづいとっただけじゃ」
確かに。やっぱり二人には頭が上がらない。
「まったく・・どうしてもそっち(
「じゃあ、こっちの世界に引き込むかのう。お灸をすえるといいじゃろ」
「どうやって?」
孫兵衛さんはコロロちゃんに耳打ちをした。
*
机で一番ながめのいい電気スタンドのとなりで寝そべっていたパンチのもとに孫兵衛さんとコロロちゃんがやってきた。
「コロロ姐さんに親分、呼んでいただけりぁこっちからうかがいましたのに」
「いやいや野暮用だ。パンチよ、すまんがこの紙にたくさん穴を開けてくれんかのう」
両手いっぱいに運んできた使い残された紙たちをパンチの前に並べた。
「おやすいごようでさ」
さっそく腕まくりをして紙にパスン、パスンと穴をあけていった。
10枚、20枚・・50枚・・100枚・・500枚
「ふぅ。もう開けるとこねぇな」
パスン、パスン
(ああ、腹いっぱいだ)
孫兵衛さんとコロロちゃんは満足そうにわずかに残った紙を集めた。
「じぁ、あとはまさとくんにカスを捨ててもらうがええ」
パンチはまさとくんに気づいてもらうまでおとなしくすることにした。
* *
その夜
「パンチかすがいっぱいだ」
気づいたまさとくんは穴あけパンチのフタをあけた。
するとパラパラと赤、青、黄色、緑、金色、銀色、ピンクの丸いカスたちがとびだした。
「あっ色紙だ。かわいい」
丸い色紙たちはパンチに向かっていっせいに言った。
「おじちゃんありがとう。捨てられそうだったぼくらを生まれ変わらせてくれて」
「お、おおー」
自分のお腹から生まれた小さな命の感覚がパンチのこころを揺さぶった。
「ああーなんか・・しあわせだぁ」
* * *
「さあ、みんな、はがれないでおくれよ」
パンチはからだに丸い色紙たちをつけて太郎たちの前にやってきた。
まさとくんが捨てるのはもったいないからと、パンチにのりでくっつけたのだ。
「パンチおめえ水玉もようでファッションも昭和だな」
げんさんはすっかり見た目が派手になったパンチをからかった。
「なにを言われても気にしないもんねぇ。ねぇー」
ニコニコのパンチに水玉もようの色紙たちも「ねぇー」と返した。
遠くから見ていた孫兵衛さんとコロロちゃん。
「孫兵衛さん計算通り?」
「計算外じゃ」