第50話

文字数 1,261文字

賢治としては、ひめにゃんという生み出したキャラクターを手放したくはなかったが、確かに綾子の言う通りだとは思っていた。それに「ひめにゃん会いたいにゃー!」「ひめ推し!現物プリーズ!」といった要望の声も上がりつつあったし「もし、これでタクいのが正体なら炎上確定!」「嘘つき隠キャが呼ばれてないのにジャジャジャジャーン!とか嫌よ」など懐疑的な意見が増えつつあるのも事実だった。どうしようと悩んでみたが、綾子の写真を載せたところで問題の解決どころか、迷宮入りを果たしてしまう。ただ、正直なとこと、答えを理解していた。たぶん、若草に提案したら即採用だと思う。ヒマキンも推すだろう。ただ、本人がどう思うかだ。嫌われたくない。

「ちょっと、なんで、私がひめにゃんしないといけないの!」
「仕方ないだろう?賢ちゃんが困ってるんだから。でも、ナイスだと思うよ。寧ちゃん、これでアイドルになれるぞ。ヒマキンもオッケーですって顎突き出してたし。」
「あの人の顎突き出しは、ただの癖です。私、出たくない。そういうキャラじゃないの知ってるじゃないですか!」
「寧ちゃん、君の常識はそんなものなのか?もっと広い視野で考えようよ。誰だってキッカケさえあればアイドルになれるし、寧ちゃんには良い見た目というアドバンテージがある。ルッキズムは正しいんだ。みんな綺麗なものが好きなんだ。見た目が良ければ、それは憧れの対象になる。見た目が良いだけで「いいね」は溢れる。人間の中身なんてそんなに変わらない。見た目が良ければ、多少の無知だったり、ブレる感情とかは「人間味があって好感が持てる」に変化する。いいんだ。この世の中に中身を期待してはダメだ。嘘の現実が積み重なっているだけなんだから。」
池上のオフィスで半笑いの若草が面白そうに論を述べる。ふざけているに違いないが、隣に座る池上も微笑んで相槌を打っている。寧だけが、真剣な顔を真っ赤にして反抗しているが、寧も謀の内容は理解していたし、それは良い手だと思っている。が、自分が人前に出てひめにゃんとして活動することには抵抗があった。どうにも恥ずかしいのだ。ずっと日の当たらぬ場所にいたので、今更目立つところに出ることが想像できないでいる。
「寧さん、ネットでちょっと顔出すだけだから、その場に観客がいるわけでもないし、それに、ひめにゃんとしてのキャラ作るから大丈夫だよ。そのまま出すようなことはしないから安心して。それに台本とかも準備するよ。シンひめにゃんがいるんだから、それの傀儡をすればいいよ。何も心配することはない。」
巨漢の池上が穏やかに言うと、仏の説法のように聞こえてきて、それもそうかもしれないと寧は思い出した。
賢治が出してきたコンセプトで衣装が作られた。真っ白なビニールレザーのドレスはタイトで、パープルのラインが入っている。スカートの丈は短く張り付いている。膝上からは白いビニールのブーツ、長手袋も白。企画モノのエロ動画に出てきそうな清純なボンテージ衣装だった。それに紫のショートボブのウィッグを被らされた。
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