第73話

文字数 1,236文字

 「・・・なんか、ダサいですね。」
 「でも、一番わかりやすいんだ。いいねが溜まっていって、それを貸したり、増やしたりするんだ。まあ、いいねインベスターズのまんまでもいいけどね。どっちにしろ、いいね本位制度が始まるんだ。お金なんて過去だよ。それ、解ってて、池ちゃんは協力したんだろう?」
 穏やかな顔をしていたが、若草は池上を詰める。池上は自分と若草の違いをここで理解する。自分は評価を利用して、世の中を良くしたいと思っている。だけど、若草は評価という新しい判断基準を持ち出すふりをして、ただ単に、これまでの貨幣制度、金本位制をブチ壊したいだけなのだ。日本に流通しているお金に加えて、いいねという評価を莫大に貯めて、それをお金に変換し、市場に流す。お金の相対価値は下がり、日本経済そのものの信用を無くそうとしているのだ。これは悪だ。
 「若草さん、ダメだ。いいねをお金に変えて市場に流せば、お金の価値が吹っ飛んでしまう。」
 「なんでそう思う?お金というありもしない価値観に雁字搦めになって、その負債、未来への弊害を増やし続ける現状を打破するには、負債を吹き飛ばす必要がある。ってことは、どデカいインフレを起こすしかないけど、日銀はお金を大量に刷ろうとしなかったんだ。金利下げて緊縮なんてしてるんだ。」
 「でも、これまで貯めたお金も道連れになる。価値が下がるんだ。そんなことをしたら、貯めた人がかわいそうだ。」
 「なんで?使わない方が悪いんだ。なんで貯めようとする?なんで積み重ねようとする?人生なんて、積み減らす方が大事なんだ。何かがあってもいいように、貯める?無駄だって。みんな、お金を恐れているんだ。なくなったら大変だってね。でも、お金なんて、もともと実態がないものなんだ。それに踊らされて、縛られて、何ができる?お金は道具だったはずだ。なのに、いつの間にか、その道具に、実態のない数字に使う側が、使われるようになってしまった。それを解放したいんだ!」
 力強い若草の演説。思わず池上はそれに対して拍手さえしたくなった。その通りだ!お金が支配している!それから解放されないといけない!でも同時に、共通認識の価値交換の仕組みがなくなったら、大変なことになることは理解できる。お金で世界が動いているのなら、世界からお金を取り上げたら、世界が止まってしまう。誰もが戸惑うに違いないし、お金が世界にとっての最後の常識の砦でもある。欲しいものがあったら奪うのではなく、お金を奪って、それを買うという犯罪に対するワンクッションが無くなってしまう。お金だけ気をつけておけばいいのに、全部に対して注意をしないと安全が手に入らなくなる。
「池ちゃん、お金がなくなると大変だと思っているだろうけど、代わりに評価が、いいねが、流通するんだよ。君が考えている評価があれば、それが信用になるんだ。お金持ちよりか、評価持ちが大事にされる。ってことは、みんな、下手なことをしなくなるかもしれないじゃないか!」
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