第25話

文字数 1,063文字

 九月一日。二学期が始まる。夏休みの後半は朝のラジオ体操もなかったので、登校班で集まる時点から照れくさい。同じ登校班に六年生はいない。なので同じ五年生で三組の前田が班長。龍太は副班長だ。二人の間に下級生を並ばせる。ここに来年は弟の俊太が入るのだなあ、と思うと更に責任を自覚する。
 小学校の校門前には、教頭先生が立っていた。三年生で机を投げて怒られた、あのときの教頭。この人、まだ校長になれないんだな、と思うと可哀そうな気がしてきたが、やはり実力不足なのだろうと思った。そんな考えがバレないように、大きな声であいさつした。教頭先生の横を通ると運動場に出る。ここをつき切って校舎の昇降口に向かう。運動場に入ってからは、列を崩してよいことになっていた。下級生たちが走り出す。友達に会えるのが嬉しい。素直な彼らをみて、微笑ましいと思っていたが、前田も大きな声を出しながら走り出した。ガキくさい奴だ、と思って龍太は敢えてゆっくりと歩き続けた。

 一か月半ぶりの教室は、なんだか狭くなったように感じた。ランドセルなどを置く棚と窓との角に、孝弘がいた。大きな体の誰かと喋っている。林間学校翌日の終業式以来で、ちょっと話しかけづらい気持ちもあったが、今話しておかないとまた疎遠になる気がして近付いた。大きな体だと思ったのは、昭だった。もともと大柄だったが、上も横も更に大きくなった気がする。というより、逞しくなった。

「おはよう、孝弘、昭。元気だった?」
「おお、龍太じゃん。お前こそ元気か?」
 とまず昭が答えた。聞きなれない、低めの少し掠れた声だった。
「うん、俺は元気。夏はほとんど塾だった。お前らは、野球?」
「もちろん」と孝弘。孝弘もちょっと大きくなったように見えたが、声は龍太の聞き覚えがあるそれだった。
「練習も試合もきつかったけどな、多分俺らレギュラー勝ち取れた」
 と昭が続ける。俺ら、ということは昭と孝弘のことだろう。もう一人の野球チームメンバーである泰史がここにいないが、彼はギリギリに登校してくることが多いので、気にならなかった。そして彼らの健闘を称えつつ、今の孝弘と比べられたら、山田さんは孝弘に魅かれてしまうかもしれないと焦った。
 そう思った時、山田さんの声が聞こえてきた。挨拶したいな、と思うが一層恥ずかしい。でも自然と教室の入口に顔を向けてしまう。山田さんは夏休み前と違って、髪を束ねていた。清楚、という言葉が龍太の頭に浮かぶ。目が合った気がして、ついにやけそうになった。が、続けて洋一郎と泰史の声がしたので、顔を引き締めた。
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