第79話 透明な思い出は消えない
文字数 1,543文字
おおっ、とか、きれい、といった声が上がった。
「どことなくドミノ倒しに似てますね」
これは不知火さんの感想。私も初めて見たときは、そう思った。
「そうだよね。ただ、このトランプによるドミノ倒しは、その気になれば元に戻すこともできるのよ」
逆サイドを同じように持ち上げて、押してやると、さっきとは逆に、表向きだったカードがぱたぱたぱたと裏を見せていく。
「力加減を調整してあげれば、こういうことも可能」
カードが倒れきらないように、手の平で優しくタッチして左右に動すと、今度はカードが波のようになる。波の頂点を右に左にと動かしてる感じだ。
「これができるようになったら、見せる演技の幅が広がるって」
調子に乗って、カードをあまり見ずにみんなに話し掛けていたら、手元が狂って、一気に倒してしまった。
「失敗失敗。私ももっと練習しなくちゃだめね」
練習するに当たってのこつを伝える。といっても、これは私個人がやりやすかったというだけで、みんなに当てはまるとは限らない。
自分の感覚だと、ターンオーバー自体はそんなに難しくない。条件が整えば、勝手になってくれる。だから、その条件を整えるためのスプレッドの方が重要かなって思う。均一にカードを開き、なおかつ重なり具合が絶妙になってこそ、スプレッドはきれいだし、ターンオーバーも美しく決まる。
そのためには、トランプそのもののお手入れもまた重要と言えるんだけど、今日はそこまで用意していない。はっきり言って、小学生の私達には本格的に過ぎるし、他のテクニックとの兼ね合いもあって、お金が掛かる。ワックスの代わりにロウソクのロウをこすりつけるなんて方法もあるけれど、欲張ってあれもこれもといっぺんにやる必要はない。カードのお手入れに関しては、少なくとも紙製のトランプが人数分揃うまでは、棚上げってことでいいでしょ。
「お! 奇跡的に一発でできたぞ!」
離れた机でやっていた相田先生が、見てくれと言いたげに大きな声を出した。
スプレッドやターンオーバーもメンバー各自で練習しといてねってことでクラブ授業が終わり、一旦教室に戻る途中。階段の踊り場に差し掛かったとき、水原さんが聞いてきた。
「物が透明になったり、消えてしまうマジックってどんなのがある?」
「えっと、いくつか思い浮かんだけど……できるのがない」
種すら知らない演目がたくさんある。それに、種を知っているマジックでも、技術的に難しくてまだできない物がいっぱい。
「とりあえず、代表的なのを教えて。どんな現象なのか」
そう質問してくる水原さんのすぐ後ろで、不知火さんも立ち止まって耳を傾けてる。なぁんだ、二人で話してて透明とか消失が話題に上ったのね。
「何が代表的なのか判断できないけど、私がこれまでに観た中で、一番感心したのは……」
すぐに出て来ない。感心したマジックが多すぎるよ。その中から敢えて、強いて、どうしても選べって言われたら、最初のときの感動を重視して。
「テレビで観たんだけれど、マジシャンがお客の一人に手伝ってもらって、カードマジックを色々やったあと、最後にしたのが凄く印象に残っている。シャッフルしたカード一組をお客さんに渡して、『両手でしっかり握って、預かってください』と言うの。カードは外から覗けない状態になる。それからもうひとネタこなしたあと、マジシャンが『これでおしまいですから、預かってもらっていたトランプを返してもらえますか』と言い、手の内を見せるように促す。そうしたら、手伝いのお客さんは、その場で飛び上がるほど驚いていたわ。何たって、握っていたはずのトランプが、同じサイズの透明なアクリルの塊になっていたんだから」
つづく
「どことなくドミノ倒しに似てますね」
これは不知火さんの感想。私も初めて見たときは、そう思った。
「そうだよね。ただ、このトランプによるドミノ倒しは、その気になれば元に戻すこともできるのよ」
逆サイドを同じように持ち上げて、押してやると、さっきとは逆に、表向きだったカードがぱたぱたぱたと裏を見せていく。
「力加減を調整してあげれば、こういうことも可能」
カードが倒れきらないように、手の平で優しくタッチして左右に動すと、今度はカードが波のようになる。波の頂点を右に左にと動かしてる感じだ。
「これができるようになったら、見せる演技の幅が広がるって」
調子に乗って、カードをあまり見ずにみんなに話し掛けていたら、手元が狂って、一気に倒してしまった。
「失敗失敗。私ももっと練習しなくちゃだめね」
練習するに当たってのこつを伝える。といっても、これは私個人がやりやすかったというだけで、みんなに当てはまるとは限らない。
自分の感覚だと、ターンオーバー自体はそんなに難しくない。条件が整えば、勝手になってくれる。だから、その条件を整えるためのスプレッドの方が重要かなって思う。均一にカードを開き、なおかつ重なり具合が絶妙になってこそ、スプレッドはきれいだし、ターンオーバーも美しく決まる。
そのためには、トランプそのもののお手入れもまた重要と言えるんだけど、今日はそこまで用意していない。はっきり言って、小学生の私達には本格的に過ぎるし、他のテクニックとの兼ね合いもあって、お金が掛かる。ワックスの代わりにロウソクのロウをこすりつけるなんて方法もあるけれど、欲張ってあれもこれもといっぺんにやる必要はない。カードのお手入れに関しては、少なくとも紙製のトランプが人数分揃うまでは、棚上げってことでいいでしょ。
「お! 奇跡的に一発でできたぞ!」
離れた机でやっていた相田先生が、見てくれと言いたげに大きな声を出した。
スプレッドやターンオーバーもメンバー各自で練習しといてねってことでクラブ授業が終わり、一旦教室に戻る途中。階段の踊り場に差し掛かったとき、水原さんが聞いてきた。
「物が透明になったり、消えてしまうマジックってどんなのがある?」
「えっと、いくつか思い浮かんだけど……できるのがない」
種すら知らない演目がたくさんある。それに、種を知っているマジックでも、技術的に難しくてまだできない物がいっぱい。
「とりあえず、代表的なのを教えて。どんな現象なのか」
そう質問してくる水原さんのすぐ後ろで、不知火さんも立ち止まって耳を傾けてる。なぁんだ、二人で話してて透明とか消失が話題に上ったのね。
「何が代表的なのか判断できないけど、私がこれまでに観た中で、一番感心したのは……」
すぐに出て来ない。感心したマジックが多すぎるよ。その中から敢えて、強いて、どうしても選べって言われたら、最初のときの感動を重視して。
「テレビで観たんだけれど、マジシャンがお客の一人に手伝ってもらって、カードマジックを色々やったあと、最後にしたのが凄く印象に残っている。シャッフルしたカード一組をお客さんに渡して、『両手でしっかり握って、預かってください』と言うの。カードは外から覗けない状態になる。それからもうひとネタこなしたあと、マジシャンが『これでおしまいですから、預かってもらっていたトランプを返してもらえますか』と言い、手の内を見せるように促す。そうしたら、手伝いのお客さんは、その場で飛び上がるほど驚いていたわ。何たって、握っていたはずのトランプが、同じサイズの透明なアクリルの塊になっていたんだから」
つづく