第59話 うらない、おもてあり、重ねて?
文字数 1,377文字
「つちりんもトランプ、持ってきてるんだっけ?」
陽子ちゃんの問い掛けに、つちりんが「うん」と答えながら、ランドセルからトランプを取り出した。つちりんのは紙製の箱に入っており、カードそのものの素材も多分紙。だけどマジック用ではない。というのも、キャラクター柄の描かれたタイプのトランプで、その裏面の模様にも人物が描いてある。この絵のおかげで、裏面からでカードの上下がはっきり分かる。これではマジックに向いていない。
「水原さんのシャッフル、ヒンズーシャッフルはまあまあきれいだけど、リフシャッルフはちょっと固いね」
一端の批評家気取りで、陽子ちゃんが言う。水原さんはそのリフルシャッフル――左右の手に同じくらいカードを持って、交互に重ねる切り方をやりながら答える。
「このカードに不慣れなのもあるけれど、確かにこの切り方は何枚もかたまりでばさばさって落ちちゃう。あ」
最後の方のカードが跳ねて、何枚かが床に落ちた。朱美ちゃんがそれを拾うと、すぐには渡さずに、「試しにつちりんのカードと、自分のカードでやってみてよ。どのくらい差があるのか見てみたい」なんて言い出した。
「それじゃあ……」
水原さんは手元に残っていたカードを朱美ちゃんに手渡し、代わりにつちりんのトランプ一組を受け取った。
「あ、反ってもいいの?」
「別にいいよー。占い用じゃなく、遊び用だから」
「分かった。ありがと。――こっちの方がやりやすい感じ」
水原さんの感想を耳にして、それは多分、初めて触る場合は紙製の方が柔らかくて反発力がプラスチックよりも弱いからだろうなと思った。
続いて水原さんが家から持ってきたというプラスチック製のカードでも試すと、さすがに慣れているのだろう、結構鮮やかにやってのけた。この分なら、手さばき自体に不安はないみたい。
「――ねえねえ、佐倉さん。やっぱり、一番やりにくいので練習しておくべき?」
「あ、うん。そうして。なるべく簡単にできるマジックを選ぶつもりだけれども、練習しておくに越したことはないから」
「分かった。長時間、手を使うのは、執筆で慣れてるつもりよ」
マジックの演目が決まらないことを不安がらず、前向きでいてくれる。これに応えなくちゃ。
「――あら?」
水原さんがシャッフルの途中で手を止め、朱美ちゃんの方を見た。
「金田さん、拾ってくれてありがとうですけど、重ねるときによく見てなかったでしょう」
「あー、ごめん。適当にやっちった。許してたもれ」
気安い口調で言いながら、片手を立てて謝るポーズを取る朱美ちゃん。どうやら、さっき拾ったカードを、元のカードに加えるときに、裏表がごっちゃになってしまったみたい。
……裏表……!
閃いた。
私は無意識の内に両方の手を握っていた。そして同時に、何でこのマジックを忘れていたんだろうって思った。
「水原さん」
「決まった?」
「うん。お待たせしました。これならっていうのが見付かったわ。とりあえず、水原さんにだけ教えるから、そのあと、みんなの前でやってみたらいいよ」
「ええ? いきなり?」
「多分、大丈夫。そのぐらいシンプルだけど、効果抜群のマジックだから」
私は自信を持っておすすめした。
あとは、このマジックの種をあの六年生達が知らないことを祈ろう。
つづく
陽子ちゃんの問い掛けに、つちりんが「うん」と答えながら、ランドセルからトランプを取り出した。つちりんのは紙製の箱に入っており、カードそのものの素材も多分紙。だけどマジック用ではない。というのも、キャラクター柄の描かれたタイプのトランプで、その裏面の模様にも人物が描いてある。この絵のおかげで、裏面からでカードの上下がはっきり分かる。これではマジックに向いていない。
「水原さんのシャッフル、ヒンズーシャッフルはまあまあきれいだけど、リフシャッルフはちょっと固いね」
一端の批評家気取りで、陽子ちゃんが言う。水原さんはそのリフルシャッフル――左右の手に同じくらいカードを持って、交互に重ねる切り方をやりながら答える。
「このカードに不慣れなのもあるけれど、確かにこの切り方は何枚もかたまりでばさばさって落ちちゃう。あ」
最後の方のカードが跳ねて、何枚かが床に落ちた。朱美ちゃんがそれを拾うと、すぐには渡さずに、「試しにつちりんのカードと、自分のカードでやってみてよ。どのくらい差があるのか見てみたい」なんて言い出した。
「それじゃあ……」
水原さんは手元に残っていたカードを朱美ちゃんに手渡し、代わりにつちりんのトランプ一組を受け取った。
「あ、反ってもいいの?」
「別にいいよー。占い用じゃなく、遊び用だから」
「分かった。ありがと。――こっちの方がやりやすい感じ」
水原さんの感想を耳にして、それは多分、初めて触る場合は紙製の方が柔らかくて反発力がプラスチックよりも弱いからだろうなと思った。
続いて水原さんが家から持ってきたというプラスチック製のカードでも試すと、さすがに慣れているのだろう、結構鮮やかにやってのけた。この分なら、手さばき自体に不安はないみたい。
「――ねえねえ、佐倉さん。やっぱり、一番やりにくいので練習しておくべき?」
「あ、うん。そうして。なるべく簡単にできるマジックを選ぶつもりだけれども、練習しておくに越したことはないから」
「分かった。長時間、手を使うのは、執筆で慣れてるつもりよ」
マジックの演目が決まらないことを不安がらず、前向きでいてくれる。これに応えなくちゃ。
「――あら?」
水原さんがシャッフルの途中で手を止め、朱美ちゃんの方を見た。
「金田さん、拾ってくれてありがとうですけど、重ねるときによく見てなかったでしょう」
「あー、ごめん。適当にやっちった。許してたもれ」
気安い口調で言いながら、片手を立てて謝るポーズを取る朱美ちゃん。どうやら、さっき拾ったカードを、元のカードに加えるときに、裏表がごっちゃになってしまったみたい。
……裏表……!
閃いた。
私は無意識の内に両方の手を握っていた。そして同時に、何でこのマジックを忘れていたんだろうって思った。
「水原さん」
「決まった?」
「うん。お待たせしました。これならっていうのが見付かったわ。とりあえず、水原さんにだけ教えるから、そのあと、みんなの前でやってみたらいいよ」
「ええ? いきなり?」
「多分、大丈夫。そのぐらいシンプルだけど、効果抜群のマジックだから」
私は自信を持っておすすめした。
あとは、このマジックの種をあの六年生達が知らないことを祈ろう。
つづく