第150話 “あともう一つだけ”
文字数 1,683文字
「今、そっちは廊下にある固定電話で受けてるんだよね?」
「うん、そうだよ」
私は早くも警戒して、辺りをきょろきょろ見渡した。当然ながら変わった物は何もないし、起きそうな気配もない。
「では、1から13までの数で、一番お気に入りは?」
「……お気に入りじゃなくて、今、任意で選んでもいいの?」
「ははは。さすが、マジックをやる側の人間だけに慎重だな。いいよ。好きな数を選んで」
私はよく考え、敢えて運がよくなさそうな数、13を選んでみた。
「13だね。じゃあ次。赤と黒、今どちらかを選べと言われたらどっちだ?」
「黒」
今度は小細工なし、速さだけを心掛けて直感で答えた。シュウさんはあともう一つだけ、これで最後と言って、「黒と言えばスペードとクラブだけど、萌莉はこの二つのマークのどちらがいいかな」と聞いてきた。
「……三つ葉にする」
敢えてクラブともクローバーとも呼ばず、三つ葉と答える。さすがに意味がないだろうけど疑っているぞっていうサインね。
シュウさんは特に慌てた様子もなく、淡々と「萌莉は結局、自分の意思でクラブの13を選んだことになるね」と確認を求めてきた。肯定の返事をするしかない。
「じゃ、電話機とは反対側の壁を見て」
「見たわ」
「壁掛けタイプのカレンダーがあったっけ、確か。まだ六月だし、外してないと思うんだけど」
「うん、ある」
月単位のカレンダーで、日付は升目に区切ってある。メモを書き込むことを重視した作りってところね。
「そのカレンダーの一番最後、十二月が見えるようにめくってくれる? あ、コードは届くかな」
「ええ、大丈夫」
私はカレンダーを壁から外し、言われた通りに十一月の分まで上にめくり上げ、十二月の分を眺めた、
「めくったよー」
「では、そのカレンダーの十三日のところに注目してほしい」
「13ね……何にもないけど。あ、待って。裏側に何かある?」
「だろ? 裏を見て」
「――わっ」
私はカレンダーごと全体を裏返した。十三日の反対側に当たる箇所には、鉛筆書きで黒くクローバーが描かれていた。
「どうだい?」
「三つ葉のマークがあったわ。いつの間に。っていうよりも、どうやって当てられたの?」
種を知りたい気持ちが強いあまり、送受器を耳にぎゅっと押し当てて、声を大きくしていた。
「まあまあ、そんなに焦らなくてもいいじんゃないか。一晩ぐらい、じっくり考えてみなよ」
「えー。言いたいことは分かるけれどー、他にも考えなくちゃいけないことがたくさんあって、大変なんだから」
事実、次のサークル活動でどんなマジックをやるかは、大きな宿題だ。基本練習はやるとして、それとは別に何か披露したい。取りやめにした科学マジックを順送りにして行ってもいいのかもしれないけれど、ここはできれば流れに沿った物を新たに考えたいな。それに次の金曜は後半、シュウさんが見に来るって言ってるんだし。
そういう窮状を訴え、「これでシュウさんのマジックの種を暴くのまで宿題にされちゃったら、時間がいくらあっても足りなくなるわよ」と泣き落とし?に掛かる。
「流れを汲むっていうのは、どういうことを考えてるの?」
「だから、今言ったみたいに、前は森君の夢の中の推理小説って感じだったから……マジックをやるんだったら、ミステリーに関係のある演目がよさそうに思ったんだけど。そちらの方面の知識って、私はあんまり多くないから」
「水原さんに聞くとかしないのかな」
「何度かやったあとならね。まだまだ始めて間がないし、日にちがあまりないのに言われても、水原さんだって多分困るでしょ」
「なるほどね。分かった。では今やった分は種明かしするよ。偶然にも、ミステリーに関係のあるマジックと言えなくはないんだ」
「え。どういうこと?」
「実はさっきやった分、基本は有名なテレビ映画の刑事ドラマで使われた演目なんだ。制作されたのはだいぶ前なんだけれどね、今見ても全然古くさくないし、根強い人気がある。水原さんや先生なら知っている可能性も結構高いと思う」
つづく
「うん、そうだよ」
私は早くも警戒して、辺りをきょろきょろ見渡した。当然ながら変わった物は何もないし、起きそうな気配もない。
「では、1から13までの数で、一番お気に入りは?」
「……お気に入りじゃなくて、今、任意で選んでもいいの?」
「ははは。さすが、マジックをやる側の人間だけに慎重だな。いいよ。好きな数を選んで」
私はよく考え、敢えて運がよくなさそうな数、13を選んでみた。
「13だね。じゃあ次。赤と黒、今どちらかを選べと言われたらどっちだ?」
「黒」
今度は小細工なし、速さだけを心掛けて直感で答えた。シュウさんはあともう一つだけ、これで最後と言って、「黒と言えばスペードとクラブだけど、萌莉はこの二つのマークのどちらがいいかな」と聞いてきた。
「……三つ葉にする」
敢えてクラブともクローバーとも呼ばず、三つ葉と答える。さすがに意味がないだろうけど疑っているぞっていうサインね。
シュウさんは特に慌てた様子もなく、淡々と「萌莉は結局、自分の意思でクラブの13を選んだことになるね」と確認を求めてきた。肯定の返事をするしかない。
「じゃ、電話機とは反対側の壁を見て」
「見たわ」
「壁掛けタイプのカレンダーがあったっけ、確か。まだ六月だし、外してないと思うんだけど」
「うん、ある」
月単位のカレンダーで、日付は升目に区切ってある。メモを書き込むことを重視した作りってところね。
「そのカレンダーの一番最後、十二月が見えるようにめくってくれる? あ、コードは届くかな」
「ええ、大丈夫」
私はカレンダーを壁から外し、言われた通りに十一月の分まで上にめくり上げ、十二月の分を眺めた、
「めくったよー」
「では、そのカレンダーの十三日のところに注目してほしい」
「13ね……何にもないけど。あ、待って。裏側に何かある?」
「だろ? 裏を見て」
「――わっ」
私はカレンダーごと全体を裏返した。十三日の反対側に当たる箇所には、鉛筆書きで黒くクローバーが描かれていた。
「どうだい?」
「三つ葉のマークがあったわ。いつの間に。っていうよりも、どうやって当てられたの?」
種を知りたい気持ちが強いあまり、送受器を耳にぎゅっと押し当てて、声を大きくしていた。
「まあまあ、そんなに焦らなくてもいいじんゃないか。一晩ぐらい、じっくり考えてみなよ」
「えー。言いたいことは分かるけれどー、他にも考えなくちゃいけないことがたくさんあって、大変なんだから」
事実、次のサークル活動でどんなマジックをやるかは、大きな宿題だ。基本練習はやるとして、それとは別に何か披露したい。取りやめにした科学マジックを順送りにして行ってもいいのかもしれないけれど、ここはできれば流れに沿った物を新たに考えたいな。それに次の金曜は後半、シュウさんが見に来るって言ってるんだし。
そういう窮状を訴え、「これでシュウさんのマジックの種を暴くのまで宿題にされちゃったら、時間がいくらあっても足りなくなるわよ」と泣き落とし?に掛かる。
「流れを汲むっていうのは、どういうことを考えてるの?」
「だから、今言ったみたいに、前は森君の夢の中の推理小説って感じだったから……マジックをやるんだったら、ミステリーに関係のある演目がよさそうに思ったんだけど。そちらの方面の知識って、私はあんまり多くないから」
「水原さんに聞くとかしないのかな」
「何度かやったあとならね。まだまだ始めて間がないし、日にちがあまりないのに言われても、水原さんだって多分困るでしょ」
「なるほどね。分かった。では今やった分は種明かしするよ。偶然にも、ミステリーに関係のあるマジックと言えなくはないんだ」
「え。どういうこと?」
「実はさっきやった分、基本は有名なテレビ映画の刑事ドラマで使われた演目なんだ。制作されたのはだいぶ前なんだけれどね、今見ても全然古くさくないし、根強い人気がある。水原さんや先生なら知っている可能性も結構高いと思う」
つづく